(つづき)
これでギターの音域がどうしてこのように設定されているかがだいたいわかったが,ではなぜ6弦なのだろうか.これは比較的簡単で,人間の指が5本であり対立運動指である母指がネックを押さえるため自由になる指が4本しかないからである.フレットが半音を示すため,4本の指を使い一つの開放弦からもれなくクロマティックスケール(半音階)を5つたどってもう一つ上の開放弦にいたる音程は完全4度である.従って完全4度音程で開放弦をチューニングすると,
E-A-D-G-C-F
となって,6弦あるとちょうど開放弦だけで2オクターブの音域ができる.6弦である理由はここでおしまい.でもちょっとこれは違うじゃないかと.ここで工夫するわけである.第1弦と第6弦が違うというのはいかにも使いにくい.セーハをして和声をつくるときも,ソプラノとバスがちがうとトニックを形成するのが面倒である.したがってこうしよう.
E-A-D-G-C-E
これでもよかったかもしれない.要するにFを一度下げたために,どこかの開放弦関係を4度から長三度に狭めなければいけないわけである.大体の作曲法からすると,メロディー(すなわちソプラノ)部分や内声部がクロマティック進行になりやすいし,また7thや9thのコードを考えると,やはり上の方の開放弦関係のどこかを長三度にするのがよいだろう.そうすると
① E-A-D-F#-B-E
② E-A-D-G-B-E
③ E-A-D-G-C-E
の三つの候補ができる.①はどこかで見たことないだろうか.ダウランドなどバロック以前・ルネッサンス期のリュート曲の編曲を弾いたことがある人なら①のチューニングはなじみがあるはずだ.第3弦がFisとなりシャープ四つのホ長調を弾くときに誠に都合がよい.これはこれで合理的ではあるが,ホ長調に適応しすぎているしできれば開放弦は調号なしの音でまとめるのがすっきりしてよいだろう.そうすると②か③となる.
③もよいのであるが,最後の3弦の関係が完全なドミソの3和音,ハ長調のトニックになってしまっている.第6弦もあわせると6弦のうちの4弦がハ長調トニックの構成音となってしまっている.
E-A-D-G-C-E
これはハ長調にとってはきわめて都合がいいけれども,逆に言うと他の調性にとっては不公平なチューニングであろし,実は開放弦のチューニングがある調性に適応しすぎていると,教会音楽のような長三和音しか使わない音楽ならまだしも,古典派の音楽すらかえって演奏が難しくなる.例えばこの調弦ではローポジションで7thすら押さえられない.というわけでやはり③は残念ながら却下となるだろう.
以上のような過程により,いまのギターチューニングが生まれたと思われる.
しかし一つ謎が残るのは,なぜEから始まるのかということである.いまのところ考えられる回答としては最初にあげた11線譜表の音域に近いと言うことと,調号なしの調性であるハ長調とイ短調の基本3和声・スケールが押さえやすいという理由が挙げられるが,決定的ではないかもしれない.そのような案件をそれぞれ折衷的に満たすチューニングが,②であげた現在の調弦法と思われる.
他の理由を知っている人がいたら教えてください.
そんなこんなで,ギターが小さなオーケストラと言われる所以が単純な音律論的根拠を持つことがなんとなくわかったギター歴10年目の夏である.
これでギターの音域がどうしてこのように設定されているかがだいたいわかったが,ではなぜ6弦なのだろうか.これは比較的簡単で,人間の指が5本であり対立運動指である母指がネックを押さえるため自由になる指が4本しかないからである.フレットが半音を示すため,4本の指を使い一つの開放弦からもれなくクロマティックスケール(半音階)を5つたどってもう一つ上の開放弦にいたる音程は完全4度である.従って完全4度音程で開放弦をチューニングすると,
E-A-D-G-C-F
となって,6弦あるとちょうど開放弦だけで2オクターブの音域ができる.6弦である理由はここでおしまい.でもちょっとこれは違うじゃないかと.ここで工夫するわけである.第1弦と第6弦が違うというのはいかにも使いにくい.セーハをして和声をつくるときも,ソプラノとバスがちがうとトニックを形成するのが面倒である.したがってこうしよう.
E-A-D-G-C-E
これでもよかったかもしれない.要するにFを一度下げたために,どこかの開放弦関係を4度から長三度に狭めなければいけないわけである.大体の作曲法からすると,メロディー(すなわちソプラノ)部分や内声部がクロマティック進行になりやすいし,また7thや9thのコードを考えると,やはり上の方の開放弦関係のどこかを長三度にするのがよいだろう.そうすると
① E-A-D-F#-B-E
② E-A-D-G-B-E
③ E-A-D-G-C-E
の三つの候補ができる.①はどこかで見たことないだろうか.ダウランドなどバロック以前・ルネッサンス期のリュート曲の編曲を弾いたことがある人なら①のチューニングはなじみがあるはずだ.第3弦がFisとなりシャープ四つのホ長調を弾くときに誠に都合がよい.これはこれで合理的ではあるが,ホ長調に適応しすぎているしできれば開放弦は調号なしの音でまとめるのがすっきりしてよいだろう.そうすると②か③となる.
③もよいのであるが,最後の3弦の関係が完全なドミソの3和音,ハ長調のトニックになってしまっている.第6弦もあわせると6弦のうちの4弦がハ長調トニックの構成音となってしまっている.
E-A-D-G-C-E
これはハ長調にとってはきわめて都合がいいけれども,逆に言うと他の調性にとっては不公平なチューニングであろし,実は開放弦のチューニングがある調性に適応しすぎていると,教会音楽のような長三和音しか使わない音楽ならまだしも,古典派の音楽すらかえって演奏が難しくなる.例えばこの調弦ではローポジションで7thすら押さえられない.というわけでやはり③は残念ながら却下となるだろう.
以上のような過程により,いまのギターチューニングが生まれたと思われる.
しかし一つ謎が残るのは,なぜEから始まるのかということである.いまのところ考えられる回答としては最初にあげた11線譜表の音域に近いと言うことと,調号なしの調性であるハ長調とイ短調の基本3和声・スケールが押さえやすいという理由が挙げられるが,決定的ではないかもしれない.そのような案件をそれぞれ折衷的に満たすチューニングが,②であげた現在の調弦法と思われる.
他の理由を知っている人がいたら教えてください.
そんなこんなで,ギターが小さなオーケストラと言われる所以が単純な音律論的根拠を持つことがなんとなくわかったギター歴10年目の夏である.