対ベトナム戦は順当な結果に終わった.グループリーグを通じて彼我の実力差は圧倒的であった.勝負事においては「偶然に勝つことはあるが,負けるときは必然である」という言葉がある.負ける必然性はみじんもなかった.失点の雰囲気さえ漂わせなかった.

 なのに3失点である.

 勝って文句を言うのはよくない.あの程度の実力を相手にこれ以上のパフォーマンスを見せることにはあまり意味がないだろう.相手がラフプレーをしてくる場合はなおさらだ.ただなぜあのような失点をしてしまうのかが非常に不思議だ.もちろん完全に崩された失点よりよほどマシなのはわかる.というか組織的に崩される要素はまったくなかったから,あのような失点以外はありえない.

 それ以外には失点しようのない方法によって,日本はすでに3失点をした.

 これらの失点は,日本がこれまで「絶対に負けられない」試合で積み重ねてきた失点シーンそのものである.チーム全体が弛緩した瞬間に訪れる失点である.試合の要所とは関係のないリズムで,突然その弛緩がやってくるのだ.なぜだろう.

 チームが均質すぎるのではないか.というか常に組織の中にいる自分を意識しているからではないか.瞬間的な個人プレーや,イレギュラーな事態への対応は個人的なものにならざるを得ないのだが,その切替が観念的で遅すぎるのだ.不測の事態に組織で立ち向かうことは出来ない.そして人間同士の勝負には,かならず不測の事態が訪れる.

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 それにしてもこのレベルを相手にしたときの日本の技術力は圧倒的だ.中盤のエレガントなパス回しはいくら望んでも出来ないものだろう.これはその国の文化そのものである.日本人はエレガントなものが好きなのだ.あのトルシエでさえ「日本人の感性はファンタスティックで攻撃的なサッカーを望んでいる」といった.ほんとうにそうだろうと思う.実現可能かどうかは別として,ブラジルやフランスのシャンパンフットボールを目指すのは悪くない目標だ.

 日本の田舎で田んぼを耕している隅々まで日本代表の勝利を望む日が来たら,そのファンタスティックな日本のサッカーには希望があるだろう.現在の日本においては野球・柔道・マラソン以外の分野でそのようなディザイアを求められることはない.しかしそうとはいえ,それらの分野では日本人もかなりのファンタジーを残しているのである.