百人一首は、飛鳥時代の天智天皇から鎌倉時代初めの順徳院に至るまでの、五百年以上にわたる歌人の和歌の中から、藤原定家が選んだ百首です。

 百人一首は、世界の国々から見れば、奇跡の文学です。日本という国が神代の時代から滅ぶことなく続いてきたからこそ、令和の今も詠まれ、鑑賞され、かるた大会などが開催されています。これは、日本人として誇りにすべきことであり、感動的ですらあります。

 百人一首を鑑賞していくと、日本人の心は昔も今も変わっていないことに気づきます。

 例えば、春の桜や秋の紅葉を愛でる心は、現在にまで脈々と受け継がれてきています。

 

  いにしへの 奈良の都の 八重桜

     けふ九重に 匂ひぬるかな

           伊勢大輔

 

 ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川

       から紅に 水くくるとは

          在原業平朝臣

 

 桜や紅葉のシーズンには、多くの人が観光地を訪れ、その美しさに癒されます。現代は、和歌で表現はしないものの、スマホでベストアングルの写真を撮って、インスタグラムやブログ、ユーチューブなどで表現し、共有します。

 「インスタ映え」「映える」「盛る」などと言いますが、これは短歌の映像的表現だと思います。千年後にはこれらの映像が、過去の時代の美しい表現として讃えられるかも知れません。

 宮中では「歌会始の儀」が令和の現在でも行われています。残念ながら、今年はコロナの影響で延期になりました。

 しかし、百人一首は日本が続く限り、未来永劫、その時代の方法で語り継がれていくことでしょう。