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アルゼンチンタンゴお稽古日記ーシニアライフを楽しく!

レビー小体型認知症と診断された77歳の母。長女が暮らす神戸で新しい生活をスタートさせたのですが、趣味や生きがいが見つけられず、どんどん症状がわるくなっていくばかり。大好きだったアルゼンチンタンゴが母の生きがいになることを願いお稽古の日々をご紹介します。

77歳になる母が、アルゼンチンタンゴのレッスンをはじめることになりました!大好きなタンゴの音楽を聴きながらレッスンを受けることによって、母が生き生きと楽しく老後を過ごしてくれるようになってくれれば・・と願っています。母がタンゴのある生活によって生きがいを取り戻していく様子を記録しておきたくて、ブログをはじめることにしました。母と同じ年代の高齢者の方々に、いくつになってもチャレンジ精神を忘れずに、老後を楽しく、エレガントに、美しく過ごしてもらえますように、このブログ記事が少しでも参考になれば幸いです。


まず、このブログの主人公であるわたしの母のことをご紹介します。


母は7年前にリゾートホテルの経営から引退したころから体調を壊し、それをきっかけに認知症の症状がすこしずつ現れはじめました。社長として頑張っていた頃は、クルーズ客船で旅行するのが大好きで、ファッションにもこだわりが深く、服はほとんどミッソーニ、靴とバッグはトッズかフェラガモ、暇があると最先端のお店を捜して大勢の友人達と夜遅くまで出かけているような人でした。そんな母でしたが、認知症の症状が出始めてからというもの、ファッションにもあまり関心がなくなり、昔の友人にあったり、外出することも億劫がるようになっていきました。

そればかりか、父が亡くなり妹と二人で暮らしていた母は、妹の帰宅が遅くなると、1人で家にいるのが心配になり、救急車や1警察に電話してしまったり、高価なメロンを一度に3つも買ってきたり、夜眠れないからといって市販の睡眠薬を1箱一変に飲んでしまったりと、母から目を離すことが難しいような状況になってきました。

家族で話し合った結果、長女のわたしが住んでいる神戸に母を連れてくることになりました。フルタイムで仕事をしているわたしも同居して母の世話をすることができないので、母と一緒にあちこち捜した結果、私の自宅からほど近い場所の施設を母が気に入ったので、こちらでお世話になることになりました。昨年いよいよ東京の実家を引き払い、この施設に今後もずっと住みつづけられるように手続きし、私が神戸で本格的に母の面倒を見ることになりました。

母が入居した施設は、数年前にオープンした医療法人が経営している施設で、インテリアも母の好みのモダンなデザインになっています。幸い、母の部屋は、ベランダから六甲アイランドが見渡せる南向きの景色の良い部屋で、東京の自宅で愛用していた家具や絵をほとんど運び込むことができるほど十分に広いスペースがありました。さらに快適な空間を作るために、わたしも家具の配置のレイアウトを考えたり、新しく飾りだなを買ったり、トイレから洗面所までいたるところに絵を掛けたり・・とインテリアデザイナーのように頑張りました。「ホテルのスイートルームみたい」と母も喜んでくれました。

施設にはたくさんの専門スタッフがいて、お医者様も部屋まで往診にきてくれるし、薬もきちんと決められた時間に出してもらえるし・・・・と、母にとっても私にとってもとても安心な環境が整いました。自宅から車で10分ほどで駆けつけられる距離になり、なにかあれば、ナースコールのボタンを押せば、すぐにスタッフの方が部屋に駆けつけてくれるし、朝昼晩と3食、コックさんがご飯を作ってくれるし、お掃除も専門の方がしてくれるし・・・ということで娘としては大変安心です。


ところが安心していたのもつかの間、また新たな心配が出てきました。
母はお友達を作ろうとしないのです。部屋から出て行こうとしないようなのです。


施設では、映画上映会やフラワーアレンジメントなどのイベントもあり、毎日、ダイニングルームで体操をしたり、歌をうたったり・・・といろいろなイベントが企画され、母の部屋までスタッフの人が誘いに来てくれるのですが、母はそういう集まりが好きではないらしく、部屋に引きこもったきりで、同じフロアの人たちと交流しようとする気配がありません。プライドが高く、最先端のファッションに身をつつみ、おしゃれなレストランに行って、夜な夜なジャズを聞きにいったり、タンゴを踊りにいったり・・という生活をしていた母にとって、
高齢者施設でのイベントは違和感そのものだったのです。「歌の時は出なくてもいいから、体操だけは出てみたら?」とか「たまには、ダイニングに出て行っておしゃべりしてみたら」などと言ってみるのですが、母は興味を示してくれません。


スタッフの方たちにいくら誘われても、部屋に引きこもる日々・・・。唯一母が楽しんでいるのは、若い男性スタッフのエスコートで近所のファミリーマートへの買い物に行くことだそうです。他入居者の方とのコミュニケーションや交流ができればもっと毎日が楽しくなるのにと、歯がゆい思いをしていました。


私は、母にとって良い環境を整えることができた、と思っていたのですが、訪ねていくと母はベッドに寝ていることが多くなってきました。母にとって、これが本当に良い環境なのだろうか・・・と自問自答を繰り返す日々が始まりました。

どうしたら母が楽しく毎日を過ごせるのか・・・とあれこれと考えていたところ、ふと、母が好きだったアルゼンチンタンゴの教室を捜して連れて行ってみることを思いつきました。ダンスは体を動かすので健康のためにも良いし、好きな音楽を聴くことによって昔の記憶を取り戻すことができるのでは・・と、なんとなく思いついたのです。


まず、インターネットで母が好きでよく踊っていた「アルゼンチンタンゴ」「神戸」を検索ワードとして捜したところ、北野町に専門のアルゼンチンタンゴのサロンがあることがわかりました。午後のティータイムの時間に、レッスンをしてくれるとのこと・・。母に話すと、目を輝かせ、「行ってみたいわ。」というので、早速、休暇を取ってサロンを訪ねてみることにしました。インターネットの情報を頼りに行ってみると、古いビルの2階がサロンになっていました。蔦のからまる手すりをつかみながら恐る恐る階段を上り、ガラス越しにのぞいた部屋は薄暗く、人の気配がありません。残念ながら臨時休業のようでした。その日は、北野町でショッピングをした後、お茶を飲んで帰りました。ホームページに記載してあった連絡先に電話したところ、土曜日にはオーナーの方がいらしていることがわかったので、再度出直すことになりました。


約束した土曜日に、母の部屋に行ってみると、クローゼットから捜し出したらしいダンスシューズが紙袋の中に用意されていました。最近、フラットな靴を履いている母が、少しヒールのあるフェラガモの靴をめずらしく履いています。母は約束を忘れていませんでした。この日を心待ちにしていたようです。


この日は、大学生と大学院生の娘達2人も母のタンゴのレッスンを見てみたいというので、皆で少し早めに北野町に行き、サロンの隣のフランス料理店でランチをいただきました。母のレッスンがうまくいくようにと、食事の前に皆で乾杯!母はとても嬉しそうでした。


ランチのコースが終わる頃、指定された3時になったので、いよいよ、蔦の絡まる階段を登り、サロンへ・・・。母もよろよろと、蔦の絡まる手すりをつかみながら階段を上っています。娘達も興味津々です。期待と不安を抱きつつ、恐る恐るガラスの扉を開けると、そこには、長身の初老の紳士が・・・。私達が来るのを待っていてくださったようです。

「お待ちしていました。」

その紳士は、威厳を漂わせた声で私達を出迎えてくださいました。エレガントな物腰・・・・まさにタンゴの師匠です。

いよいよ、タンゴレッスンが始まります!