児童虐待と境界例
子供に平気で暴力を振るえる人とはいったいどんな人間たちなのか?
暴力を受けて育った子は大人になって同じ親の立場になったとき、やはり自分の子供に対しても暴力を振るうという世代間連鎖があるということが専門家の間では一般的にいわれています。これは精神医学の世界では境界例と呼ばれており、一種の人格障害(性格障害)というべき概念です。この境界例の発生要因は、内因的なものから環境による原因などさまざまで、特に大きく関与している要因として幼少期における親などからの虐待があげられます。
- ジェロルド・J. クライスマン, ハル ストラウス, Jerold Jay Kreisman, Hal Straus, 白川 貴子, 星野 仁彦
- 境界性人格障害(BPD)のすべて
境界例とは正確には境界性人格障害と呼ばれており、“境界”という名前の由来は、この障害が認知され始めたころ神経症と分裂症の間を取って境界領域(=中間帯)としていたためだからなのだそうです。古くは20世紀中ごろから境界例報告などを経てさまざまな変遷推移を経てきた概念らしく、現在でも専門家の間で意見が分かれており、さらには一貫性のない非常に幅の広い複雑な症状であるがゆえ、重要な障害定義であるにもかかわらず一般的に認知されにくいという傾向があるように思われます。しかし現在では一つの臨床単位として正式に認定され今日にいたっています。ちなみに福島章著の「精神鑑定」によれば、境界例の精神状態を簡単に言えば、「特有な性格異常を基盤として現れる多彩な神経症的・精神病的症状であり、この症状の範囲の広いこと、状態像のうつろいやすさなどが境界例の特徴」と記述されています。
福島 章
また、近年のハイテク医療機器によって境界例患者の脳機能には、幼少時の親によるたび重なる暴力・ネグレクトなどにより脳内の構造的な器質障害、特に大脳辺縁系に機能異常が生じてしまい、それが原因で解離性同一性障害や、脳梁の機能異常による慢性的な記憶障害が生じてしまっているといわれております。しかもこれは不可逆的な障害(脳内奇形)なのだそうです。
こういった観点から、社会道義的のみならず科学的な意味合いからしても子供に対する暴力は、どんな言い訳をしようともやはり間違っているものであるということがいえるかと思います。
明らかに常軌を逸した行動をとる大人たちは、それをすることによって子供のその後の運命が大きく変わり悲惨な人生を歩んでしまうということに全く気づこうとはしません。それは例えしつけと称すものであっても同じことなのです。こういった悲劇を繰りかえさせないためにもやはり周りの大人たちが気を配り、注意を払い、いざとなれば(暴力を振るっている親に対して遠慮せずに)思い切った行動をとるべきだと思います。子供を傷つけるのが大人であっても、守るのもまた大人です。世代間による暴力の連鎖を断ち切ることが社会全体の責務といえるのではないのでしょうか。