セルリアンのお部屋

                 ⑧ 

 

「ここが私の部屋だ」
セルリアンに案内されて、入った部屋はあまり物が置いていない、ただただ広い部屋だった。

この部屋に来る前に乗った小さな箱の感覚が気持ち悪かったせいもあり、取り合えずオレはその場に座り込んだ。

「何をしている? 早くこっちに来い」

セルリアンは部屋から外の景色を見下ろしていた。
ここでも不思議な現象が……。
空には星が無いのに、見下ろす景色に星がたくさんある。
星なのか?
色鮮やかな明りがキラキラと外を覆いつくしている。

「キレイだな」
オレの言葉にセルリアンは頷いた。
「いつかこの景色をお前と見たいとずっと思ってた。今日やっと夢が叶った。そうだ、そうだ」
セルリアンは何かを思い出したように、オレから離れて、今日手に入れた丸いワッカを持ってきた。

「ちょっとここに座れ」
セルリアンに言われるままに、オレは背もたれのある茶色の椅子に腰かけた。
やたらとフカフカして座り心地が良かった。
セルリアンは、オレの首にそのワッカを回した。
革のイヤな匂いが鼻をついた。
ぎゅっと首を締め付けられる感じがして、
「うっ」
と、小さく声が出てしまった。
「きつくしすぎたか?悪い。」
何だ? これは一体何だ?
「よし、できた。見てみろ似合うぞ」
セルリアンに渡された、手鏡で自分の姿を写してみると、首にぴったりと赤い丸いものがフィットしていた。
「これは何だ?」
「お前が2度と私から離れないようにするものだ。これから、私はちょっと出てくるから、お前は部屋で待ってろ」
「出てくるって? どこに?」
さすがに一人にされるのは心細くなり聞いてしまう。
「大丈夫だ、すぐに戻ってくる。ちょっと片付けなきゃならないことができてな。まぁ、私が行くまでも無いとは思うが、今夜のは久々に大仕事になりそうだから」
オレはまだ不安な顔をしていたのだろう。
セルリアンが、よしよしと言うようにオレの頭を撫でて言った。
「私はこの先何があってもお前から離れたりしない。だから、お前も自分の部屋で大人しく待ってろ」

自分の部屋?
ここの部屋では無くて?

不思議に思っていると、セルリアンが指差した先には、人一人がギリギリ入れる檻のようなものがあった。

「いつかお前に逢えると信じて、お前のために特注で作らせたサークルだ。私がいない間ここから一歩も外に出るな。分かったな?」

こんな広い部屋に置いてあるせいか、その檻はとても小さく見える。
しかし、有無を言わせないセルリアンの言葉と、もう2度と離れないと約束の直後にオレに拒否権は無いと察し、オレは大人しくその中に入り、セルリアンが鍵を掛ける様を黙って見ていた。

オレ、ここでやっていけるのかな?
心細い気持ちでいっぱいだった。

 

                約束しろ。

                    ⑦

 

「この1000年、お前と離れててどんな気持ちだったか分かるか?」
ぐいと胸ぐらを掴まれた。
オレよりかなり背丈が低いから、ちょっと背伸びをしてオレの胸ぐらを掴むセルリアンに少しドキっとした。

「分かったな、2度と私から離れるな。約束しろ」
約束…。
「お、おい、オレはさっき目覚めたばかりで、何が何だかさっぱりなのに、そんな状況でどうしろって言うんだ?」
「そんなの決まってるだろう」
ふいに、セルリアンが顔を近付けた。
「……、キスしろ」

え?え?えーーーーーーーー?
キス?
セルリアンが?
頭の中がパニックになる。

確かに、セルリアンは大切で大好きな少女だった。
そう、少女だったのだ。
オレにとっては、セルリアンはまだ少女のままだったのに。

いきなり、大きくなって現れた彼女にキスしろってそんなこと言われたって。

「何を動揺してる?早くしろ」
苛立ったように、セルリアンは胸ぐらを掴む力を強めた。

その時だった。

「おーい。セルリアンさまー」

さっきまでの暑さが一瞬消え、冷たい空気が舞い込む。

声の方向に顔を向けると、小さな小さな、子供が立っていた。
男の子だが女の子だがどちらか分からない子供で、水色のニット帽を被っていた。

セルリアンはつかつかとその子供に近付き、頭を一発殴った。

「い、いてー。何すんだよ」
「お前、自分が何したか分かっているのか?」
涙目の子供にたいして、セルリアンは指をポキポキと鳴らして、低い声で言葉を続けた。
「2度とその口が開けない体にしてやろうか?」
子供はびくんと体を震わせ、助けてと言うようにオレを見てきた。

「せ、セルリアン。子供にたいして言い過ぎじゃないのか?」
念のために言っておくが、別に子供に助けを求められたからではない。
さすがに、こんな小さな子供にたいして言い過ぎだと思ったからだ。

ギロっと、しばらくオレを睨んでいたセルリアンだったが、チッと舌打ちしてから。

「それで、ホアン、何の用だ?私の大事な用を台無しにしたのだから、それなりの話じゃなかったら……、分かっているだろうな?」
子供は、ぴょんと身軽にセルリアンの肩に乗ると、何やら耳打ちをして、下に降りた。

「分かった。じゃ、いつもの時間に行くから、奴等にも連絡しとけよ」
「かしこまりました」
そう言って走り去っていく、子供のお尻に尻尾がついていたのをオレは見逃さなかった。

あいつも妖狐だったのか。

「ラビル、続きは私の部屋で話そう」

続きって……。
オレはさっきの場面を思い出し、一人で赤面していた。
 

 

            セルリアンの力

                  

 

「ここが私の家だ」
あれから、見たことの無い色々なとこに連れて行かれて、最終的に連れて行かれたとこは……。
何だこの建物は?

今日は見たことない大きな建物をたくさん見て、だいぶ目がこの世界に慣れてきたと思っていたのだが……。

これが家?

オレたちが住んでいた場所は洞窟の中の小さな小さな薄暗く、いつも水滴が落ちてくるような汚ない場所だった。

だが、しかし、今目の前にある建物は、空まで届くのでは無いかと思うぐらいのどこまでもどこまでも高く、小綺麗な建物だった。

「ラビル」
セルリアンがオレの胸にかかっている、ネオンブルーの花びら型のネックレスに触れた。

「お前はこの願いの叶う花を私が欲しいと言ったから、『獣猫』のアジトからこれを盗んできたのだろう?」
「……」
これが? あの花の花びらなのか?
確かにあの花はこんな風に透き通ったネオンブルーの色をした花だった。
だが、オレが手に握りしめたのはただの普通の花びらだったはずだ。
こんな石のように固いものでは無かった。

「その挙げ句、命を落とすとか、お前バカなのか?」

命を落とす……。
え?オレ死んだの?
じゃ、今ここにいるのは?

「あれからどれぐらいの時が流れたか分かるか?」
オレは首を横に振った。
セルリアンは深く息を吐いてから、オレから目を反らし、その目はどこか遠い彼方を見ているようだった。
「1000年だ」
1000年‼
「あれからそんなに経ったのか……」
「そう、気が遠くなるほどの長い時間だった。そんな中、私がどんな思いで過ごしていたか分かるか?1000年、私はずっと一人でお前に逢えるのを待っていた。お前がまた私の前に現れると信じて、色々な人間に成り代わり待っていた……」
1000年……。
どうして?
オレは1000年後のこの世界に飛ばされた?
オレの願いは、ただもう一度セルリアンに逢いたかった、ただそれだけなのに。

「私には不老不死の力があるらしい。それに気付いたのはだいぶ前のことだが…。そして、人間界に来て気付いたこと、それは……」
いきなり、首を捕まれ強引に目を合わせられる。

「三回回ってワン」 
何だ?
セルリアンの言葉を聞いた途端、体が勝手に動き出した。 
抗いたくても体が言うことを聞かず、三回回って、
「ワン。」
その瞬間解放された。

「今のは?」
「そう。……。どうも、私は他の生き物を自由に動かせることができるらしい。その力に気付いたのは800年ほど前だったが……」

セルリアンにそんな力があったのか?

思えば、セルリアンは治癒の力以外にも不思議な力があったことを思い出した。

昔、狼の群れにセルリアンが囲まれた事があったのだが、あの時、オレが助けるよりも早くセルリアンは、何かをして狼たちを蹴散らしたことがあった。
少し不思議に思ったが。
あの時のオレは、狼たちはオレの存在に気付いたのだろう? と軽い気持ちで思っていたが、あの時の力はきっとセルリアンの能力だったのだろう。 

オレはセルリアンの次の言葉を黙って待っていた。