難解極まりない超複雑な機械式時計の仕組みを“優しく”解説する『超弩級 複雑腕時計図鑑』がMEN’S EX特別編集によって発売に。ここでは、その中身をピックアップしてご紹介する。

 

重力の影響と屈強に戦い逆らうように宙に浮く
時計師フランク ミュラーが天才と謳われるきっかけとなったのは、1986年に製作したトゥールビヨンだった。この複雑機構をもつ腕時計の嚆矢となった1本。さらにトゥールビヨンとジャンピングアワーとを組み合わせた世界初のモデルであった。彼にとっても、ブランドにとっても、トゥールビヨンは象徴的な存在として、これまでに数々の革新がもたらされ、様々な表現が与えられてきた。

このモデルの名に与えられた、グラビティとは、重力の意味。なるほど堂々たる大型のトノーケースの内側で、悠々と広がった開口部にはムーブメントのパーツやトゥールビヨンが、重力に逆らって浮かんでいるかのように見える。その豊かな透明感は、強度と美観とが綿密に計算された最小限のフレームで支えることで創出された。最もシンプルなトゥールビヨンは、香箱からの駆動を最初に受ける2番車で分針を動かし、それとかみ合う3番車でキャリッジの軸に取り付けられた筒カナを動かし回転させる構造になっている。つまり主輪列の数は少なく、省スペース化が容易だ。この利点を、このモデルでは、より大きな歯車を用いるスペースとして活用した。スケルトナイズドした2番車と3番車を大型化することで、透明感を一層高めたのだ。

トゥールビヨンも、大型の設計に。さらにテンプをオフセット し、キャリッジの回転軸から切り離している。この構造こそが、グラビティの名の由来だ。テンプは大きな旋回軌道を描き、重力(グラビティ)の影響をより多く平均化しているのだ。Y字のキャリッジとそれを支えるアーチ状のX型ブリッジは、旋回領域を得るための工夫である。

キャリッジの下に備わる、ガンギ車が沿って動く固定歯車は、リングの内側に歯を切った形状を採用する。これにより、トゥールビヨンにも透明感を創出した。

重力と戦う複雑機構の先駆者は、その表現においても強烈な個性を放つ。

 

Point 1 
最小限のフレームで支える
地板もブリッジも、パーツが支えられるギリギリまで絞ったフレームとすることで、豊かな透明感を生み出した。各フレームはアーチ状になっていて、十分な強度が与えられている。トゥールビヨンを支えるフレームは、両面のアーチで大きな楕円の空間を得た。

 

Point 2 
テンプをオフセット
フランク ミュラーは、これまでトゥールビヨンの伝統にならい、キャリッジとテンプとを同軸としてきた。それをY型ケージを採用し、偏心させてテンプに旋回軌道を描かせた。大型のテンワは、毎秒5振動のロービートでゆったりと時を刻み、公転する。

 

Point 3 
リングの内側に歯を切った形状
天真をオフセットしたことでキャリッジに重なる固定歯車が表に姿を見せたため、リング型に仕立てた。脱進機がリングの内側に来るので、トゥールビヨンの高さも抑えられる。リング型の歯車は、外側に設けた突起で裏蓋側のブリッジに固定されている。

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