それからは緩やかで草に覆われた丘を登るだけだった。

目的のサクラが丘の上に見えているのに。

なかなか近づかないような気がしたが。

サトシと話しながらだと、それも全然苦にならなかった。

 

 

「サクラのシーズンが終わると、次は・・松かな。

サクラみたいな花は咲かないんだけど、樹は綺麗だよ。

葉がね、針みたいに細いんだ」

 

サトシが話すのをショウは相槌を打つ程度だった。

ショウには話すことがなかった。

1日を部屋で過ごすショウは画面で知り得ることしか知らない。

当然、サトシも知っているだろう、とショウは考えた。

 

 

「ショウくんは今までにどんな仕事をしてきたの?」

 

ショウは今までやってきた仕事の内容を話した。

サトシはその内容を理解できないようだった。

説明しようとしたが、サトシは首を振りこれ以上はいいと断った。

 

 

「ショウくんはやっぱり難しい仕事してんだね。

研究もするって言ってたよね?」

 

「はい。大した研究はしてませんけど・・・」

 

「いや、研究してるってだけですごいよ。

今度はサクラを研究するんだっけ?

ここのサクラにはもうすぐ会えるよ」

 

サトシが指差す方を見るとサクラの樹が急に大きくなって見えた。

 

 

「あのサクラはね。

幹に大きなウロが出来て。

その中が腐りかけてたんだ。

そこを昨日、手当した。

今日はそこの状態確認。

追加で薬を入れる必要があるかどうか?

見に来たんだ」

 

サクラに辿り着いた途端、サトシは樹の周りをぐるっと歩き。

ウロの中を覗きこんだ。

ショウはその様子を記録していく。

ウロの中に入れた手をすぐに出して。

指先についた黒い何かの匂いを確かめ、舐めたりしている。

 

 

「それは・・・口にしても大丈夫なものなんですか?」

 

「まあ・・・死ぬようなものではないよ。

美味しいものでもないけどね」

 

サトシは鼻をくしゃっとさせた。

 

 

「ショウくんも試してみる?」

 

「いえ・・・あ、でも匂いだけは・・」

 

サトシの指に鼻を近付けた。