「ありがとうございました」

 

「念のためにロープつけといてよかった。

少し休もう」

 

サトシはショウの肩をポンと叩いた。

バッグから水を取り出すと、ショウに飲むように促した。

ショウは自分が震えていることに気が付いた。

水を受け取ろうとしても、なかなか掴めなかった。

 

 

「背中に少し擦り傷はできてるかもしれないけど。

大きな怪我がなくてよかった。

この先は緩やかな丘を登るだけだから。

体力的にはさほどキツくない。

ただ、見えててもなかなか近づかないような気がするから。

まだ着かないのか、って思うけど」

 

「そしたら・・・このロープは必要ないんですね」

 

「そうだね。

でも、これをバッグに入れるのも面倒だから。

付けてってくれる?」

 

「このロープって、何キロくらいまでの重さを支えられるんでしょうか?」

 

ショウは自分を救ってくれたロープの性能が気になった。

 

 

「うーん・・何キロかな?

1トン・・・以上の耐荷重はあったと思うけど・・・」

 

「1トン!?」

 

直径1センチくらいのロープが?とショウは驚いた。

 

 

「これ、芯にカーボンナノチューブが使ってあるから。

強度的にはそれだけで十分なんだけどね。

これくらいの太さじゃないと、人が使えないから。

表面に持ちやすい素材でカバーが付いてるんだ」

 

なるほど、とショウは納得した。

カーボンナノチューブを使った宇宙エレベーターについて。

子どもの頃に調べたことがあった。

 

 

「カーボンナノチューブはこんなものにも使われているんですね」

 

他にどんなものに応用されているのか?

ショウは興味を持った。

自分の生活の中には応用されているものは無さそうだが。

ちょっと視野を拡げると、いろいろあるのかもしれない。

 

ショウは今まであまりにも何も見ていなかったと感じた。

自分が画面越しで見たもの、知ったことだけ。

部屋の中で得られた情報でだけ、物事を見ていた。

 

ロープ一本でさえ、自分の知らなかったことがある。

まだまだ自分が知らないことがこの先にはありそうな喜がして。

新しいことと出会える楽しみを感じた。