僕を踏み台にしたのを気にするだろうな、って思ってたから。
やっぱり、って思った。
僕の体にあざの一つや二つ。
翔くんが無事に戻れたんだから全然気にならない。
「んふふ、大丈夫だって。
必死過ぎて、痛いのなんて全然感じなかったよ。
翔くんが頑張って船に戻ってくれたから。
僕も船に戻れたんだよ。
それ考えるとさ・・・これは勲章だよね。
僕ら二人が助かるために付いた勲章」
「智くん・・・ごめん」
「そこはごめん、じゃないの。
ありがと、でしょ?」
泣きそうな翔くんの顔はまだ笑顔にならない。
だから、僕はああなった原因を責めることにした。
「それより・・・翔くん。
ルアーなんて消耗品なんだよ。
ルアーなんかより、自分のこと大事にして。
お願いだから。
ごめんって謝るんだったら、自分を大事にしなかったこと謝って。
翔くんが海に落ちそうになって・・・心臓が止まるかと思った。
ドキっていうか、ひやっていうか。
ホント・・・怖かったんだよ。
翔くんを・・・失うことに・・・なりかねないじゃん」
ほんと、よかった。
無事に帰って来られて。
翔くんの手を取って、恋人つなぎ。
しっかり手を握る。
こうやって手をつなぐと、気持ちまでしっかりつながる気がする。
「うん、ごめん。
智くんに多大な負担をかけることになって。
自分の行動を思い返すと、今なら怖いって感じる」
「んふふ、分かってくれた?
あと・・・僕もごめん」
「智くんは謝るようなこと何もしてないよね?」
「ううん。釣りに誘った僕が、翔くんの安全に気を配れなかったから。
ああなったんだよ。
ちゃんと先にルアーは消耗品だからよく失くすことがあるよ、って。
話しとけば、翔くんだって、すぐに諦めたかもしれない。
乗ってる人の安全を確保する船長としての責任もあったのに」
お揃いのルアーって浮かれてて。
翔くんが僕からのプレゼントをものすごい大事に思ってくれてること。
考えなかった僕のミス。
最初に話してたら、きっと翔くんは別のルアー使ったよね。
何よりも楽しく安全に、が大事なのに。
「智くんは俺の安全、守ってくれたよ。
こうして、ちゃんと連れて帰ってくれたじゃない」