陸に近くなると、運転が難しくなる。
正直・・・・今の僕の状態でうまく陸に船を寄せられる自信がない。
それでもやらないと、陸に上がれないんだけど。
もうすぐ陸ってところでエンジンを緩める。
船は惰性で進むから、勢い良くは突っ込んでは行けない。
船長が別の船で近くまで来てくれていた。
乗り込んでくるのは難しいから、ロープを引っ掛けて、曳航してもらう。
「翔くん、もうすぐ着くからね」
「さと・・し・・くん・・」
翔くんは口唇が真っ青になって、ガタガタ震えていた。
気温が低くなってきたからか?
翔くんの体中から白い煙みたいのが上がっている。
座りこんで、動いてないから体温が下がったのかも?
「翔くん、少し立てる?
体動かして、あったまろ?」
手を握ると、ひんやりしてる。
僕の手の方がまだあったかいんだろう。
ぎゅっと手を握る。
翔くんは船室の壁と僕の手に頼って立ち上がる。
船室の外だと風が直接当たるからもっと寒い。
この狭い操舵室でできる運動なんて足踏みくらいか。
立ち上がった翔くんはふらふらしている。
僕にしがみつくようにして、なんとか立ってる感じ。
早くあっためてあげなきゃ。
「おおーい着いたぞ。
降りられるか?」
いつの間にか、着いてたみたいで。
声がかかる。
「いこ、翔くん」
翔くんの手を引っ張って、陸との間にかけてくれた板へ連れていく。
翔くんを抱きかかえるようにして、板を渡る。
船と陸の間が少し開いてるから、落ちないか?
ちょっと心配だった。
なんとか陸に下ろすと、船長から声がさらに声がかかる。
「風呂、沸かしてあるからあったまれ。
片付けは全部しとくから。
荷物は宿の方に持ってけばいいな?」
「はい、お願いします!」
船長に怒鳴るように返事して。
震える翔くんの肩の下に腕を通して宿に向かう。
おかみさんが、玄関で待っててくれた。
「おかえりなさい。
とりあえず、お風呂。
タオルと着替えは置いてあるから。
ゆっくりあったまってきなさい」