一緒になって落ちたものの。

翔くんの体にしがみ続けることはできなかった。

落ちた衝撃で一気に水の中に沈みこんだ。

息を止めて、自然と浮かび上がるのを待つ。

ライフジャケットが反応して、勢い良く膨らんだ。

かと思うと体が引っ張られる。

水面に向かっていってるんだろう。

波にもまれたのか、翔くんと離れてしまっみたいで。

自分の周りには翔くんの姿が見えない。

鼻の中に入った海水でつーんと痛みが襲う。

 

「翔くんっ!どこっ!?」

 

ライフジャケットが自動で膨らんでくれるはずだから。

溺れることはないはず。

この寒さの中、水の中にずっといたら体が動かなくなる。

早く見つけなきゃ!

ちょっと離れたところに赤い何かが見えた。

翔くんのライフジャケットか?

赤いものはあっちこっちにと変な動き方をしている。

 

 

「翔くーん!」

「智くーん!」

 

やっぱり、あの赤いのは翔くんかも?

そっちの方から声が聞こえてくる。

泳いで近付いて行くと、やっぱり翔くん。

驚いたことに竿をまだ持ったまま。

竿が何かに引っ張られて、船から離れてしまったらしい。

 

 

「なんか大物がかかってたんだね。

もう、諦めて。

船に上がらないと凍えちゃうから」

 

翔くんは顔を歪めた。

竿から手を離して、その行方を目で追った。

 

 

「翔くん、泳げる?」

 

翔くんは頷いた。

二人で並んで泳ぐけど、波に揉まれてなかなか進まない。

船の近くに来ただけで、疲れでへとへと。

なのに・・・これから船に上がるっていう、問題が待ってる。

 

僕が落ちた時は、船の上から人に引き上げてもらった。

でも、今回は自力で上がらなきゃいけない。

船べりに手が届かない。

 

 

「翔くん、こっち。もうちょっとだけ頑張って」

 

反対側面まで翔くんと泳いでいく。

着ている服は防水が効いてるけど、ちょっとずつ水が染みこんでくる。

水の中にいると、締め付けられるように感じる。

腕も脚も重くて、なかなか泳げない。

アンカーの細い鎖が水面まで下りている。

 

 

「これつかまって登って、先に登って。

登ったら、船室のとこに救命浮き輪があるから。

それ投げて、僕のこと引き上げて」

 

 

☆★

 

いや〜終わらない(笑)

翔くんの誕生日のおはなしのはずなのに〜

これは3月まで続くのか?