「ダメ。翔くんは大事な時でしょ。
これから翔くんのやりたい仕事を目一杯できるんだよ?」
「だから、って言ったら語弊があるけど。
LGBTをZEROで大々的に取り上げてもらってるからね。
俺が当事者として世に伝えることができれば、説得力が増す。
困ることはない。
俺は決してゲイじゃないけどね。
智くん以外の男性にはそういう意味での魅力を感じないから。
でも・・・・
同性を愛する人間として、伝えられることもあると思う」
「でも、事務所の偉い人に怒られるよ?」
「若い頃は恋愛は慎めとは言われたけどね。
もうこの歳になると、そんなことはないでしょ。
遊びじゃなく真剣な相手にしろ、って言われるだけだよ」
「でも、翔くん。
僕は嫌だよ。
誰かにすっぱ抜かれるようにして。
僕らの関係が世に出るの。
翔くんにその覚悟があるなら、正々堂々と大きな声で言って欲しい。
誰かに邪推されるように書かれたりするのは嫌だよ」
そんなことになったら・・・
翔くんが追っかけまわされる。
事務所からだって責められる。
僕も責められるだろうけど、それはどうだっていい。
表に出る仕事をしばらくしないから。
「大丈夫だよ。
ほら、見て。
船なんていないよ」
翔くんが周りを見渡す。
僕も同じように見渡してみた。
確かに翔くんが言うように珍しいことに船の姿は見えない。
潮の具合がよくない時間なのかもしれない。
ホッとしたら、なんか力が抜けた。
思わずそこに座り込んだら、翔くんも隣にしゃがんだ。
「智くん、大丈夫?
具合悪くなった?」
「違う。なんか・・・安心したら力が抜けちゃった」
「俺もなんか力出ないな。
何か飲み物でも飲む?
荷物にポットあったよね?
何か温かい飲み物でも入ってるんでしょ?」
「そうだね・・少し休憩しようか?
釣れなさそうだしね。
おかみさんにお弁当作ってもらってあるから。
きっと翔くん、好きだよ。
すっごい美味しいの。
でも、ちょっと待ってて
ルアー先に付けちゃうから」
手に持ったままのルアーをワームと交換した。