東京湾の真ん中。
人目が完全になくなるわけじゃないけど。
大分、気にしなくてもすむ。
エンジンを止めて、アンカーを下ろす。
軽いアンカーだから、僕一人でも扱える。
タックルボックスを開けて、翔くんに道具を見せる。
「翔くんはワームの方が扱い易いと思う」
「ワーム?」
「こっちの大きいミミズみたいなやつ。
何色のがいい?
ラメ入ってるのもあるよ?」
「へ〜これ、ライブ衣装みたいな色のもあるね」
「うん、これ、こないだのライブの衣装みたいだよね?
これにしよっか?」
竿の針にぐいっと引っ掛ける。
ワームスプレーをシュッと一吹き。
底の方にいそう、って言ってたから、錘は重めのにする。
あとは海に落とすだけ、ってとこまで準備してから翔くんに渡す。
「はい、これであとは投げるだけ。
好きなところに投げ入れて。
後ろに竿を傾けて、前に振り下ろして途中で止める。
ココらへんで止めると、よく飛ぶ。
錘がついてて、底まで沈むから、糸が出るのが止まるまで待って。
それからリールのここをこっちに倒して。
糸を巻き上げる」
身振りも付けて、やり方を説明する。
「え?それで釣れる?」
「運が良ければね。
あとは魚の気分次第」
翔くんが恐る恐る竿を降るけど・・・
怖がってるからか?
勢いが付かない。
船のすぐ横に落ちた。
まあ、それでもいいよ。
ここは海の上。
どこに落ちても、そこに魚がいたら釣れる。
僕も自分の竿の準備をする。
ルアーを付けて、翔くんの隣で投げた。
ちょっと遠くに落とす。
シュルルルルと糸が出て行く。
気持ちのいい音。
さあ、釣りの始まり。