船宿に入ると、よおっ、って船長が手を上げる。
「おはようございます。今日はお世話になります」
僕が挨拶する前に翔くんがそつなく挨拶をする。
翔くんには奥の部屋で着替えてもらう。
その間に僕は今回の契約の確認。
「ほい、昨日書いてもらった書類、このままでいいかい?」
「うん、船長はこの補償で大丈夫?」
「うちは大丈夫だ。じゃ、このままでいいな」
「ありがとうございます」
僕の無理なお願いを聞いてくれた船長には、後でちゃんとお礼しなきゃ。
今は頭を下げてとりあえずのお礼の気持ちを表す。
奥から翔くんが僕を呼ぶ声が聴こえた。
襖を開けると、新品の釣り装備に身を包んだ翔くんが立っていた。
なんていうか・・・
着慣れないからなのか?見慣れないからなのか?
馴染んでない感じがすごいする。
借りてきた衣装って感じ。
「んふふ・・・くっははははっ」
つい、笑いが溢れた。
「何?何か変?」
自分の身なりをチェックするように身を捩ってる。
翔くんが不安そうな顔して、眉毛がハの字なのも。
それもまたおかしくて笑いが止まらなくなる。
「大丈夫ですよ。ただ、馴染んでない感じはしますけど」
船長が僕の代弁をしてくれる。
「ほれ、大野さんも着替えないと」
僕も奥の部屋に入る。
翔くんとお揃いのウエアは僕のも新品。
下ろすのは翔くんと一緒に釣りに行くとき、って決めてた。
やっと使える。
翔くんの見てる前で手早く着替える。
シャカシャカと音を立てながらウエアを着て。
最後に首の周りだけのライフジャケット。
いざという時には自動で膨らんでくれるのにした。
落水して慌てると手動でなんてなかなか出来ない。
自分の経験から学んだ。
翔くんの首にもライフジャケットを掛けて。
紐をしっかりと結んだ。
全部色違いのお揃い。
長靴もだもんなぁ・・・
船長に何か言われそう。