サトシのすぐ横ではショウがまだ眠っている。
深い眠りの中にいるのか、いびきはかいていなかった。
テントの外は朝靄がかかっていて、遠くまではまだ見通せない。
サトシは前日に手当したサクラの樹の方をみやった。
今年は早めに来てよかったと、考えた。
サクラの樹は虫に食われていて。
幹の部分に大きなウロができていた。
あまりにウロが大きくなりすぎると、そこから樹が折れてしまうこともある。
大きくなりかけたウロの中を消毒し。
新たな虫や最近が入り込まないように塞いだ。
ここを住処にしようとしていたのか?
小鳥が周りを飛んでいた。
小鳥には別のところを探してもらわないといけなくなった。
チチチチと鳴いていた鳥はもしかして住処を奪われてしまった鳥かもしれない。
「ごめんね。
キミたちとサクラの樹が仲良くしていけるように。
手当できればよかったんだけど。
まだ樹医として未熟で、ああするしかできなかった。
もっと頑張って勉強するね」
サトシが空を見上げるとさほど大きくない鳥が頭上を円を描いて飛んでいた。
サトシは山でのこんな時間が好きだった。
普段、家の周囲には鳥も動物も見かけない。
人間の生活圏には動物がいないよう管理されているからだ。
人畜共通感染症に人間が感染する危険を予防するためだった。
「昨日はありがとうね!」
サトシは鳥に大きく手を振った。
「何がありがとうなんですか?」
すぐ近くで声が聞こえた。
ショウが起きてきていた。
「ショウくん、おはよう。
体の調子はどう?
ありがとう、って言ったのはね。
ショウくんがいることを知らせてくれたから」
鳥が?もしかして自分の近くで鳴いていた鳥?
ショウは鳥を見上げた。
鳥がそんなことをするとは信じられなかった。
「お礼言っておくんだよ。
知らせがなかったら、命を落としてたかもしれないよ」
「ありがとうございました」
納得がいかないままだったが、サトシが言うならば、と。
ショウが鳥にお礼の言葉を告げると、鳥は鋭い鳴き声を上げて。
小さい円を描いて飛んだ後。
遠くに見える山の方へと飛んでいった。