ショウには分からないことばかり。

サトシの考え方が理解できない。

言っている言葉の意味は分かる。

けれど・・。受け入れがたい内容に思えた。

 

 

「サトシさんにとって、樹は・・・なんですか?」

 

「手をかけた樹はね・・・分身みたいなものかな。

だからね・・・可愛い・・愛おしいよ。

ずっと元気でいて欲しいと思う。

だから、夜も離れられなくて、根元で野宿することも多い」

 

ショウには全く分からない考え方だった。

 

 

「分かりません・・・・」

 

ショウはサトシの横に腰を下ろした。

地面は乾き始めていて、寝転んでももう服は濡れなさそうだった。

それでもショウは寝転ぶ気にならなかった。

 

 

「樹医として、樹を見るようになってから、そう思うようになったからね。

今のショウくんには分からないと思うよ」

 

今の、と付けてくれたのはサトシの優しさなのか?

ショウもサトシと同じような経験を積んでいけば・・・

同じように思うようになるのか?

いや、ならないだろう、とショウは思った。

同じ経験をしても自分がサトシと同じような考えに至るとは思えない。

同じように考える必要があるのか?

それは、ゆっくり考えることにした。

 

ショウもサトシの隣に寝転んだ。

せめて、今は同じものを見ようと思った。

 

 

昨日見たサクラも綺麗と感じたが。

このサクラは力強さを感じた。

サトシはこのサクラは生きていないと言ったが・・・

とてもそんな風には感じられない。

 

緑の葉と濃いピンクの花がバランスよく競うように枝についていて。

空の青と雲の白を背景にして、一枚の絵のように見えた。

 

 

「このサクラも美しいですね」

 

「樹医として来るようになったのは・・・・

この樹に元気がなくなってからなんだけど。

それまでは、もっと力強く美しく咲き誇ってたんだろうね」

 

「こんな山奥で何のために咲いてたんだしょうね・・・?」

 

「人間のためじゃないことは確かだね。

樹医くらいしか、こんなところまで来ないだろうから。

蜜を吸う鳥も来るし、虫も来る。

人間がいなくても、うまくやってたんだろうね。

樹医なんて、ホントは必要ないんだよ。

人間が見るための樹を治す医者だから。

でもね・・・樹が好きなんだよね。

病気だったり、弱ったりした樹があると知ったら・・・

なんとなく・・・ほっとけないんだ」