「・・・・ショ・・・・ショウくん?」

 

顔に何かが触れる感触がした。

自分の名前を呼ぶ声がだんだんと耳に入るようになり、ショウは目が覚めた。

自分がどこでどうしているのか?とっさには思い出せなかった。

目を開けて、最初に目に入ったものは人の顔だった。

困った時には、こういう表情をする、という見本のような顔。

サトシの脚に頭を載せたまま、自分は眠ってしまったらしい、と気付いた。

初めて会った人に触れたまま、眠ってしまうなんて!

ショウは驚きと戸惑いを感じた。

自分が眠っている間、サトシは何もできなかったはず。

サトシに大きな迷惑をかけて・・・きっと怒っている違いない。

 

 

「サトシさん・・・すいません!」

 

「んふふ・・・ショウくんよく寝てたね?

寝不足だった?」

 

ショウの生活は時間に縛られるものではない。

それだけに眠る時間は特に決めてなかった。

寝不足になるわけはないが、なぜか、眠ってしまった。

 

 

「そんなはず・・・ないんですけど・・・

すいません・・・サトシさん、何もできなかったですよね」

 

「いいの、花見てただけだから。

もう夕方だから、そろそろ帰るでしょ?」

 

サトシに言われて、かなりの時間、眠ってしまったことに気付いた。

暖かかった日の光も弱くなってきている。

 

 

「すいません・・・花をよく見ずに寝てしまって」

 

「一人じゃなかった、ってだけで楽しかったよ。

ショウくんの寝言もなかなか楽しめたし」

 

サトシはクスクス笑った。

 

 

「えっ?寝言?」

 

「ふふふふ・・そう・・・とても口に出せないような寝言」

 

サトシは口に丸めた手を当てて笑っていた。

ショウは今夜寝るときには、録音をしてみようと決めた。

サトシの笑いがある程度、おさまるのを待ってショウは聞いた。

 

 

「サトシさんも帰るんですか?

ビークルないみたいですけど・・・近いんですか?」

 

「ん?今夜はそこの橋の下で寝るつもり。

自宅は遠いからね」

 

橋の下?そんなところで?

サトシにはびっくりさせられることばかり。

そして自分の口から出た言葉にも驚いた。

 

 

「じゃあ・・・うち、ここから10分位なので・・・・

今夜うちで寝ませんか?」