「今日の仕事はサクラの花を楽しむこと。
ショウくんに時間があるならさ、付き合ってくれない?
その方がサクラが喜んで、来年にいい花が咲くんだよ」
「サトシさんは毎年ここでサクラの花を見てるんですか?」
「うん、それが仕事だからね。
毎年、この時期はここらへんのサクラをチェックしがてら。
花見をしてるんだ。
ショウくんも一緒に花見してくれたら・・・きっと来年はいい花が咲く」
そう言って、サトシは目を細めながら頭上の花を見上げた。
食事が終わったサトシは箱をバッグにしまった。
花見をすることが仕事だと言ったけど、この後どうするのか?
ショウが水面の白い欠片を眺めていたら。
サトシがそのままそこにゴロンと寝転んだ。
「えっ?」
「ん?こうするとね、自分の見てる世界が変わるよ。
ショウくんもやってみたら?」
ここに?そのまま寝転ぶ?
そんなことは・・・と躊躇したショウに気付いたのか?
「そのままじゃ抵抗ある?
じゃ、ここに、頭のっけてごらん。
頭だけでも違うから」
サトシは起き上がって、自分の太ももをポンポンと叩いた。
ショウの足をそっちにやって、ここに頭、そうそう。
と、指示をもらいながら、寝転んだ。
初めて直に触れた地面は暖かく感じて。
気持ち悪さは感じなかった。
二人でもぞもぞしばらく収まりがよくなるように探っていた。
落ち着くと、ショウはサクラの木を下から見上げた。
自分の視界いっぱいに広がる薄い色の花、花、花。
ところどころから透けてみえる空の色にその花は映えて。
ハラハラと欠片が舞い散るさまは美しくショウの目に映った。
「サクラ・・・って・・・」
綺麗、美しい、だけでもない。
何か言葉にはできないものがショウを襲ってきた。
「うん。怖いよね」
サトシがショウの言葉を引き取って続けた。
美しすぎるものは怖いのかもしれない。
よく覚えておこう、とショウは思った。
そよそよと吹く風も気持ちよく。
さわさわと風にサクラが答えているような音も耳に優しく。
時々、サトシがサクラに話しかける声も心地よく。
日の光は暖かく体を温める。
枕にしているサトシの太ももが柔らかく、適度な弾力もあり。
家で使う枕にしたいくらいだ、とショウは思った。