最初は怖いと感じた橋の上も、サクラの美しさでなのか?

そこにいることに対する怖さを感じなくなった。

あっちを見ても、こっちを見ても。

サクラ サクラ サクラ

サクラから舞い落ちる白い欠片が水面に浮いていた。

ショウはその白い欠片が花弁だということは知っていた。

しかし、サクラの木に付いている花を構成しているものと。

水に浮かぶ欠片が同じものだと。

思いたくなかった。

そんな自分の心理を分析してみる必要がある。

しかし、それは今、でなくてもいい。

部屋に戻ってからでもできる。

今、は・・・ただ、このサクラを見ていたい。

 

川の水は流れている。

白い欠片はその流れで流れて行ってしまう。

それでも、たくさんのサクラの木から次から次へと花弁が舞い降りて。

水面の欠片がなくなることはなかった。

 

 

パシャンと水音がした。

ここには、何か生物が生息しているのか?

淡水魚が生息している?

まだ小さかった頃に見た図鑑や生物学のレクチャーを思い出す。

画面の中の画像でしか見たことはない。

それが、ここにいる?

ショウは好奇心に駆られた。

こんなワクワクする気持ちは久しぶりだった。

興味を引かれる対象が外にあったとは。

 

 

橋からこわごわ身を乗り出して、欠片の隙間から水の中を覗こうと思った。

 

 

「え?」

 

そこには、人が。

自分以外の人間が・・・いた。

 

 

また、パシャンと水音がした。

その人が水面をかきまぜて、流れる水面に波紋ができる。

 

ゆらゆら波の上で揺れる白い欠片。

波が起こっても、沈むことはなく。

水の流れに漂っていた。

 

さっきまではその欠片に視線を囚われていたのに。

 

目が合った途端。

その人から目が離せなくなった。

 

ショウを見上げているその人も。

ショウから目を離さなかった。

ショウは動けなくなった。

 

 

その人は水に浸けていた手を上げた。

無造作に手を振って、着ているTシャツで軽く拭って。

そのまま斜面を這い上がってきた。