それから数世紀が経過。
すでに家族という単位すらもなくなり。
人は生まれてすぐに一人で暮らすことになった。
母親はすぐ子どもから離れ、ナニ−ロボットに引き渡す。
ナニーロボットは自らの使命を淡々と遂行する。
家族という単位の中での児童虐待という問題も消失。
人間関係が原因となる精神疾患もほぼ消失。
人間の移動による無駄なエネルギー消費が抑えられた結果。
生成されるエネルギーは全て物資の生産と輸送に充てられることとなり。
その時代の世界的な問題となっていた食料・エネルギー不足問題は解決。
同時に環境汚染・破壊の問題も徐々に減少することとなった。
人と会わずに暮らすようになると、一つだけ問題が出てきた。
生殖の問題。
まずは体外で受精させた卵を人工子宮で生育させようとした。
が・・・途中で胎児死亡が相次いだため。
人工子宮での生育はすぐに諦めざるを得なくなった。
次は遺伝子情報がヒトと近い動物に移植する方法を試験的に行った。
しかし、体外での生活が可能な時期まで妊娠が継続できる動物は限られており。
ヒトの胎児の頭囲の大きさから必ず帝王切開になることから。
妊娠させられる回数の制限や妊娠中の管理の難しさがあり。
現実化は見送られた。
結局のところ、科学技術が進んだとしても。
生殖は生物としての根源的ないわば原始的な方法でしか成し得なかった。
生殖可能年齢になる前から生殖についてのレクチャーを受ける。
女子は初経から、男子は精通から5年過ぎた頃。
マッチングしました、と連絡がくる。
生殖を目的とした男女の交流が義務付けられており。
子どもを二人生み出すまでは定期的な交流が課せられている。
ショウに連絡が来るのはあと半年ほどだろうか?
そのときのことを想像すると、ショウはぞっとする。
人に触れなくてはいけない?
生殖行為がどんなものか?
レクチャーを受けて、怖気が立った。
粘膜と粘膜を接触させる?
とんでもない!
義務を果たさなければ、物資の供給に制限がかかる。
現在の生活水準を維持するためには、義務は果たさなければならない。
人はその労働や研究によって報酬が決まる。
物資やエネルギーがその報酬となっている。
人との接触に嫌悪感を持つ人が多い社会。
人は諦めの元に生殖の義務を受け入れていた。
ショウもまた生活水準維持のため。
生殖の義務を諦めつつ受け入れようとしていた。
そろそろか?いつ来るか?
普段は考えないようにしていた。