この石は蒼くんと僕、二人の宝物になった。
綺麗に洗って、机の鍵がかかる引き出しに入れておいた。
僕たちはなんとなく狐が付けてくれた名前で呼び合っていた。
初めて会った時にその名前だったから。
それが一番合ってる名前のような気がした。
学校帰り、いつもの神社に寄ることがなくなった。
神社に寄る代わりに蒼くんに会いに行く。
「オイラ、しんぞうってとこが生まれつき悪いんだって。
だから、ずっと病院にいる。
小さい頃はもうちょっと動けたんだけどね。
今は、すぐ苦しくなっちゃう。
でもね・・今度手術することになったの。
それで元気になれるって!」
蒼くんが嬉しそうに笑った。
心臓の手術があるのは、僕が学校のある日の朝早くから。
朝は会いに来られないから、会えるのは手術が終わった後。
その日は、なんとなく石を机から取り出してポケットに入れていった。
この石は・・・迷子になった僕たちを帰らせてくれた石だから。
学校から走って家に帰った。
自転車で病院に向かう。
病室に入ったら・・・
「なんで?おとうさんとおかあさんがいるの?」
蒼くんは僕のお兄ちゃんだった。
今まで僕にお兄ちゃんがいることも知らなかった。
おとうさんが病気のことを話してくれた。
生まれた時からずっと入院してること。
半年くらい前に急に意識がなくなって、危険な状態になったこと。
つい最近、意識が戻って手術できるようになったこと。
僕はベッドに足元の方に座った。
ポケットに入れてあった石を手に握った。
お願いします。
どうか・・蒼くんが迷子にならず、帰ってきますように!
ICUで目を覚ました蒼くんはおとうさんもおかあさんもいたのに
僕のことを真っ先に見つけて呼んでくれた。
「紅くん・・・ずっと呼んでてくれたよね?」
手術中、危ないことがあった、ってお医者さんがおとうさんたちに話してた。
無事に手術が終わったのは、奇跡的だった、って。
でも、僕たちはそれが奇跡じゃないことを知ってる。
蒼くんと僕は顔を見合わせて笑った。
END