地面に丸をいくつか描いた。
一番最初の丸に石を置いた。
ひとーつ、ふたーつ。
蒼くんと交代で蹴る。
なかなかうまくいかない。
とんでもない方向に飛んでったり。
ひとーつ、ふたーつ。
ひとーつ、ふたーつ。
繰り返していたら・・・
ひとーつ、ふたーつ、みーっつ、よーっつ、いつーつ・・・
お神楽の音が遠ざかっていく。
笛や太鼓や鐘の音もだんだん小さくなって。
葉擦れの音が強くなって、さわさわという音が耳にいっぱいになって。
ぼやん、と何かが変わった。
明るさが変わった。
そこは、いつものお社だった。
蒼くんは!?
振り向くと、泣きそうな顔で笑ってる。
ゆらゆらと境目が曖昧になって。
「ありがとう。待ってるから」
蒼くんの声がした。
くるん、とひっくり返った感じがしたら・・
蒼くんの姿はなくなっていた。
ずっとつないでいた手は空っぽになってて。
つないでた手のひらに汗だけが残っていた。
足元に黒い猫がすりすり体をすりつけてる。
「蒼・・くん?」
猫はみゃおん、と一声鳴いてお社に向かって駆け出していった。
お社の暗がりと灯りの境界線で・・・
猫はどこかに消えていった。
きっと・・そのまま狐のいる世界に帰ったんだろうな。
蒼くんは・・自分の体に帰れたのかな?
蒼くんに聴こえるか?わからないけど。
空に向かって叫んだ。
「絶対に会いに行くから!」
僕をあっちへ連れて行ってくれて、帰り途の案内をしてくれた石。
拾ってみたら、泥が付いていた。
手で拭ってポケットに入れた。