さくらいの体が落ちそうになって。
自分で体なんとか支えようとしたのか?
肘がカップに当たったらしい。
カタンとカップが倒れた音がした。
コーヒーの薫りが広がって。
それまでの雰囲気が壊れた。
キス待ってる時間、スゲー長く感じたのに。
零れたコーヒーからはまだ湯気が上がってた。
慌ててタオルで拭こうとするさくらい。
「アチッ」
慌てすぎだって。
床に零したわけじゃないし。
そのままタオル載っけとけばいいじゃん。
だけど、変わった空気は元には戻らなくて。
結局、もう一回カップにコーヒー注いで。
ついでにみかん山積みのカゴまで付いて。
こたつに戻った。
しょうがなく、みかんの皮剥いて。
口に放り込む。
久しぶりに食べると、うめーな。
「このカップさ。お揃いで買ったの?」
猫舌のオイラの適温になったコーヒーを啜った。
「ペアで安くなってたんだ」
とか言いつつ。
オイラだって知ってるくらいの陶器のメーカーが底に書いてある。
安くなってたって言っても、ぜってー安くない。
「ふーん。ペアの、オイラと使おうと思ってくれたんだ?」
さっきのキスからさくらいはメガネかけるのを忘れてる。
メガネがないと、ちょっと若く見えるかも。
バッグからスケッチブックを取り出して。
さくらいのスケッチを始めた。
いつも家ではメガネを外してるのか?
すごいリラックスしてる感じが出てて。
学校にいる時と表情が違う。
あーこのさくらい描きとめたい。残しておきたい。
記憶にも絵としても。
課題は今夜のさくらいにする、って決めた。
鉛筆の線をスケッチブックに重ねていく。
さくらいがバッグの中から袋を取り出した。
あ、オイラが渡したのだ。
言われた通り、中身見ずに持って帰ってきたんだ。
さくらい律儀だなぁ・・・
オイラだったら絶対見ちゃうけど。
ページをめくり始めたさくらいの顔がすぐに真っ赤に染まった。