智くんに次の言葉を言わせないために。

俺はマネージャーになりたい理由を話した。

 

 

音楽が降ってきたら、日常のことができなくなる智くんをサポートしたい。

智くんが空っぽになっちゃった時、側にいればいつだって、会える。

困った時には、すぐに俺が支えたい。

 

そんなことを言葉を変えながら、矢継ぎ早に何回も繰り返して。

それでも、智くんの困った顔は変わらなかった。

 

 

「翔くん、将来を決めるのに、僕中心で考えちゃダメだよ。

ちゃんと翔くん自身を真ん中にして考えて。

マネージャーの希望は受けられない。

よく・・考えてみて。

僕はね・・・支えあいたいって言ったんだよ」

 

それからもなんとか智くんにうん、と言って欲くて。

手を変え品を変え、理屈で攻め、感情で攻め。

しばらく会えないのがつらいから、側にいたい。

そんな同情を引くことだって言ってみた。

 

それでも・・・智くんは受け入れてくれなくって。

その場では諦めざるを得なかった。

でも・・・まだ望みはあるのかな?と思えたのは・・・

 

 

「翔くん、今夜、うちに泊まれる?

ちゃんと話そう?

ここじゃ落ち着いて話せないからね」

 

そう言ってくれたから。

 

 

 

帰りの電車の中。

目立たないようにバッグの下で手をつないで来たのは智くんだった。

寒いのか・・指先が冷えてる。

心なしか・・・いつもよりぎゅっと力が入ってる。

 

 

電車の中ではマネージャーの件は話さなかった。

 

映画のサントラのCDの発売が決まったこととか。

その宣伝のため、今度テレビに出るかもしれないこととか。

雑誌のインタビューをいくつか受けたこととか。

CDの売れ行きがよかったら、楽譜集の企画もあることとか。

 

智くんは自分ことを話してくれて。

今、俺が大学でどんなことしてるのか?聞いてきた。

 

 

「必要な単位はもう取ったから・・・

興味のある講義取ったり、聴講したり。

ゼミで頑張ってる。

卒論にもちょっとずつ取り掛からなきゃだし。

あとは・・・・インターンシップに行ってるよ。

マネージメントを勉強したくて、芸能事務所に行ってる。

◯◯っていう男性のタレントさんに付かせてもらってね。

使いっ走りみたいなことしたりもするけど・・・

指導担当の方がすごく良くしてくれてて。

すごい・・・勉強になってるよ」