「智くん〜!

こんなトコに来てたんだね!

病室にいないから、心配したよ!」

 

櫻井さんはビシっとワイシャツにネクタイまで締めてた。

それって、松本さんが準備してくれた?

松本さんが着せてくれたのかな?

ボタン締めて、ネクタイ結んで。

 

なぜだか、また胸が苦しくなった。

 

 

「主任さん・・まだ胸が苦しいです・・・」

 

「それは大野さんが若い証拠!

その苦しいの、もっと楽しみなさい」

 

ドン、と背中を叩かれると、櫻井さんの方に押し出された。

よたよたと櫻井さんの方に向かう。

ナースステーションのドアを大きく開けて、櫻井さんが僕を待っていた。

 

 

「櫻井さん、ここでイチャイチャしないでくださいね。

そんなことは病室でお願いしますよ」

 

「承知してます!」

 

櫻井さんは、僕の腰に手を当てて。

反対の手は僕の手とつないだ。

 

 

「足、痛みはない?

ゆっくりでいいからね」

 

僕が転んだりしないように、手をつないでくれてるのか。

それでも、つながれた手が嬉しくって。

胸がドキドキする。

さっきまでの苦しいのは、ちょっと楽になったけど。

また、違う苦しい感じなのは・・・

やっぱり、僕・・・死んじゃうのかも?

死んじゃうなら・・・僕のアパートの部屋で、がいいな。

櫻井さんの愛の巣、って言ってるのが・・

櫻井さんと僕の愛の巣って思える場所で。

 

 

「櫻井さん・・・僕、入院してなきゃダメですか?」

 

「ダメ!智くんの怪我がすっかりよくなるまでは!」

 

「もう、大分歩けるようになったけど・・・」

 

「まだ、ちょっと怪我した脚をかばってる感じがあるでしょ?

無理すると、かばってる脚を痛めるからね」

 

 

ゆっくり歩いて戻った病室には、松本さんはいなくなってて。

ちょっとホッとした。

 

 

「松本さんは?」

 

「ちょっと用事頼んだ」