その中庭に、いつの頃からかわからないけど・・・
夏の初めにホタルが飛ぶようになった。
ホタルの寿命は短い。
夜、光って、求愛していても。
もう、数日後には死骸になって地面に落ちていたりする。
一生懸命光ってて。
気持ちを伝えてるのに。
相手がそれに応えてくれないこともある。
翔ちゃんが好きなのに。
応えてもらえない自分。
気持ちが伝わらないまま、僕も死んでいくんだろう。
僕もホタルみたいなもの。
数日の命しかない、ホタルが自分みたいに思えて。
地面に落ちたホタルの死骸をそのままにしておけなかった。
尖った石を見つけて、地面に穴を掘った。
いくつか見つけたホタルの死骸をまとめてその穴に埋めた。
爪の間に土が入って。
石を握っていた手には、擦り傷や切り傷。
そんな僕の手をみて、翔ちゃんは怒った。
こんなことして、何かあったらどうする?
病状が悪化したら。発熱したら。
破傷風にだってかかってしまうかもしれない。
そう言って、翔ちゃんは僕の手を握りながら怒った。
その怒りは・・・大事なモノを壊される怒りだったんだろう。
しつこすぎるほどに手を洗って、爪の間も綺麗にして。
大した傷でもないのに、抗生剤入りの軟膏を塗って、包帯を巻かれた。
小中学校の頃なら、舐めて終わり、くらいの傷。
こんなにしないと・・・ダメなんだ。
小中学校の頃がすごい遠くに感じた。
俯いた僕に翔ちゃんは優しい声で言った。
「痛かった?ちゃんと治療したから。
大丈夫。すぐ治るよ」
痛いのは、手じゃなかった。