翔ちゃんが僕を入れてくれた施設は快適だった。

僕は翔ちゃんだけのモノで大事に大事にしてもらえる。

ほとんど外には出られないけど。

翔ちゃんがいて、自分の好きなことができればそれでいい。

 

たまに、外に連れ出してもらっても、人が多くて疲れる。

夜には熱が出てしまうことが多くなって。

次第に外に出ることもほとんどなくなっていった。

 

陽圧に管理された僕の部屋には、ハメ殺しの窓しかない。

外気にもほとんど触れないまま過ごしていると。

無性に外に行ってみたくなることがある。

 

そんな時には、中庭に出る。

部屋の隅に中庭へ出るためのガラス張りの扉がある。

外部とは通じてない中庭だから鍵はない。

小さい湧き水と、その周囲をグルっと回れる通路。

池の周りに生えた植物と大きくて葉がよく茂る樹。

その根元に置いてあるベンチ。

あるのはそれだけ。

 

この研究所の立地はよくわからないけど。

出かけた時に見たら、そんなに人里離れたところでもない。

それなのに、車の走る音も聞こえないし、人がいるざわめきも聞こえない。

 

葉擦れのさわさわという音。

湧き水が時々ボコっと湧いて。

チチチ・・という鳥の鳴き声。

 

翔ちゃんが仕事中の昼間は時々ここで過ごした。

スケッチブックを持ちだして、咲いている花を描いたり。

イヤホンで音楽を聴きながらただ雲を眺めていたり。

 

 

仕事が終わった翔ちゃんが部屋に僕がいないことに気付いて。

慌てて探しに来たこともあった。

 

よく晴れた日で。

見上げたら空に星が見えた。

部屋に帰りたくない、もっとここにいる。

って駄々こねたら、困った顔して。

 

それでも、部屋からブランケット持ってきて。

夜風に当たらないようにしてくれた。

 

月がなくて、星しか出ていない。

暗い夜だったから。

 

翔ちゃんの頬を指で撫でて。

キスをせがんだ。