「恋人みたいだね」
たった一言なのに。
恋人として好きになってもらってるわけじゃない。
翔ちゃんのモノとして、大事にしてもらってるだけ。
翔ちゃんはそう考えてる、ってハッキリ分かってしまった一言。
分かっていたのに。
僕には心浮き立つようなデートでも。
きっと翔ちゃんには、そうじゃない。
壊れかけてるモノがそれ以上壊れないように。
大事に扱ってくれていただけ。
風が強くなると、翔ちゃんの腕に力が入る。
僕が寒くないように、風下になるようにしてくれる。
寒くないように、肩を抱かれていたけど。
好きだから、体を引き寄せるのではない。
ダメージを与えないようにする。
ただ、それだけの行為。
自分で選んだことなのに。
なんで、心が壊れそうなくらいに痛いんだろう。
その一言をもらうまでは、楽しいデートだったのに。
口を開くと、涙が零れそうだった。
何も言えずに、時間だけが過ぎていった。
見えるのは、打ち寄せる波と流れていく雲。
打ち上げられて乾燥した海藻が風に吹かれて転がっていく。
こんなにツライんなら。
最初に好きだ、って言っておけばよかった。
翔ちゃんの心に響かなくても。
人として、好きになってもらえるかもしれない。
そんな日を待つのを選べばよかった。
もう、いまさら修正は効かない。
モノとして大事にされることを選んだ僕は。
もう、使えなくなってダメになる時まで。
ずっとモノのまま。
帰りの車の中で、暗くなった空を見ながら考えた。
もうダメ、って翔ちゃんに思われたたら。
きっと僕はあっさりと捨て去られるんだろう。
僕が死ぬ時には、一人きりに違いない。
そう思ったら、死ぬのが怖くなった。
それまで以上に、その瞬間を迎えたくないと思った。
僕は暗闇が怖くなった。
一人きりで死んでいくことを突きつけられるから。