二宮医師の指示に従い、智くんの全身状態の検査が始まった。

その検査の指示をそのままサトシにも行う。

健康な臓器であるか?の検査は重要だ。

 

検査に2週間以上を費やした。

それに基づき、第一次治療計画が立てられた。

 

今回は生体肝移植と膵臓を同時移植することになった。

生体肝移植は多量の出血が想定される。

肝臓は血管が豊富な臓器だ。

思わぬところに血管が増殖している可能性もある。

造影検査で血管の走行はある程度、事前に分かっているが・・・

手術中は何が起こるか分からない。

 

手術に備えて、自己血を採取することにした。

輸血用血液は血液センターから取り寄せることもできる。

しかし、他人の血液はやはり負担がかかる。

智くんの体への負担を考えると・・・サトシから採取するのが最善。

 

サトシに多量の造血剤を投与し、血液を採取する。

濃厚赤血球2単位を7パック。

毎日のように、造血剤の注射、採血を繰り返したサトシの腕。

針を刺した跡が紫色の痣になっていた。

その跡を見ながらサトシが聞いた。

 

 

「翔ちゃん・・・今度の手術・・・危ないの?」

 

「血液のこと?念のためだよ。

今回手術する肝臓は血管が多い臓器だから。

自分の血液の方が、体には優しいからね。

考えうる最善の策を・・・取っておきたいんだ」

 

「うん・・・でも・・見苦しくなっちゃったね・・」

 

「内出血はすぐに消えるよ。

手術が無事に終わることの方が・・・重要だからね」

 

「そう・・だよね・・・でも・・

僕・・・怖い。

手術が・・・怖いよ」

 

サトシが俺にしがみついてきた。

毎日の検査に加えて、注射に採血。

自分を健康と考えていたサトシにとって。

何も分からないままに進められていく処置。

人は未知のことに対して恐怖を持つ。

サトシも・・・同じか?

 

「手術する先生は今回も相葉先生だよ。

あの先生はいい先生だから・・・何も心配しなくて大丈夫。

麻酔で寝て、起きたら・・・全部終わってるよ」

 

「翔ちゃん・・・今度は・・ずっと僕の側にいて!

前のとき、起きても・・・翔ちゃんがいなくって・・・・」

 

泣きじゃくってしがみつくサトシは小さい子どものようだったのに。

 

 

「お願い・・・手術の前に・・・・セ ッ ク スしたい」

 

涙が消える前にキスしてきたサトシは・・・

子どもじゃなかった。