二宮医師の言ったとおり。

 

腹部エコーで見ても、肝臓の表面が荒れている。

MRIでも内部に不自然な組織拘縮がいくつもできているのが判明。

 

智くんの肝機能は落ちてきていた。

肝機能を表す血液検査は正常値内には入ってはいる。

しかし、経過を見ると、徐々に値が上がってきている。

機能的にはボーダーだろう。

造影検査では、血流が悪くなっている。

拘縮部分では血流がほぼない。

糖負荷試験では、血糖値が正常値に戻るのに時間が掛かり過ぎていた。

糖尿病のリスクが高い。

 

肝硬変が進むと、黄疸が出現。

低蛋白で腹水の貯留も起きる。

開腹手術する前の全身管理が難しくなる。

やはり全身状態が悪化する前の手術の方が智くんの負担が少ないだろう。

 

早めに・・・手術する決断をしたほうが良さそうか?

その判断も含め、二宮医師に相談したいと思って、連絡をした。

 

スケジュールが空く、という前回から25日後を数日過ぎただけ。

二宮医師の契約を取り付けた。

 

 

 

「俺は手術をするしないの決断はくださない。

ただ、櫻井先生が欲しいというならば、決断のためのアドバイスはする。

俺が考えるべきはどこまで?

レシピエントとドナーのこと?」

 

「いえ。ドナーのことは考えなくても結構です。

二宮先生にお願いしたいのは、レシピエントのことだけ。

最優先・・ではなく、レシピエントオンリーで考えていただきたい。

今回の生体肝移植のことだけではなく。

この先レシピエントの体調維持のために、最善と思われる治療計画を・・

考えていただきたいと思ってます」

 

「だとすると・・今回も生体肝移植だけ・・では済まない可能性もある。

複数の臓器移植が必要、となった場合。

ドナーが本来複数必要となることもあるが・・・」

 

「うちのこのケースでは、提供される臓器のことは考えなくて結構です。

先生が欲しいと思った臓器は提供可能です」

 

「・・・・分かった。

あまりツッコんで聞かない方がよさそうだな。

俺は悪魔、と呼ばれたこともあったが・・・・

あんたも・・・・けっこうな悪魔だな」

 

二宮医師は口元を片方だけ引き上げた。

返事はしなかった。