一週間が経過。

電解質の変動も少なくなり。

浮腫もほとんどなくなった。

食事も塩分蛋白水分の制限がなくなった。

 

普通の病院なら、一般病棟に移してもいい状態。

しかし、研究所には一般病棟はない。

 

二宮医師が研究所を去るときに、細かい指示を出していった。

この先の状態を見越した、指示書だった。

 

 

「僕たちの部屋に戻りたい・・・

ね、翔ちゃん、ダメ?」

 

「いいよ。帰ろうか?」

 

腕を組むようにして、智くんを支えつつ、部屋に戻った。

自分のベッドに1週間ぶりに寝た智くんは、ベッドの上でゴロゴロ転がった。

浮腫が引いて、体重もかなり減り、下肢の痛みや倦怠感がなくなったせいか?

動きが以前のような軽やかさを取り戻していた。

 

それでも、まだ、創部の抜糸はしていない。

術前の全身状態が悪く、念のために抜糸はなるべく遅らせるという判断。

時々、引き連れるような痛みというか違和感を訴えることはある。

それでも、動きたいらしい。

 

 

「ラーメン食べる?」

 

「それは海に行った時の楽しみにとっておく。

今日は、パンが食べたい。

ブルスケッタ・・・食べたいな」

 

連絡すると、ほどなくブルスケッタが銀のトレイに載せられたものが来た。

 

 

「いただきます!」

 

パンはカリっと焼けていて、香ばしい。

ガーリックの風味がほどよく効いて、トマトとよく合う。

智くんも、一切れ食べては、指を舐め、次のを狙う。

 

レモン果汁を絞った炭酸水を飲みながら、食べていく。

 

 

「グラタンも・・・ちょっとだけ食べたい。

翔ちゃん・・・いい?」

 

「いいよ。もう、食事制限はないから。

智くんが食べたいもの、頼もう」

 

智くんが、具体的にメニューを上げて食べたい、というのは久しぶりだった。

空腹感もほぼ訴えることもなく、ただ、必要だから食事していただけ。

そんな状況が続いていた。

 

 

 

「翔ちゃん・・・ありがとう。

こんなに食事が楽しく美味しく食べられるようになるなんて。

翔ちゃんのおかげ・・・」