外出用の服の智くんは、元気だった頃と変わりなく見える。
その実、命を保つのもやっとなのに。
俺と手をつなぎ、ゆっくりと車まで歩いていく。
「翔ちゃんと海に行くの・・・久しぶり。
まだ、変わってないかな?」
ご機嫌に笑う智くんを助手席に座らせる。
シートは智くんが楽なように、少し倒してあった。
智くんはそれを戻した。
「外、見て行きたいから」
シートベルトを締めるために助手席の背もたれに手をかけた。
智くんの指がゆっくりと頬を撫でる。
ゆっくりと、口唇を触れさせて。
その感触を楽しんだ。
首の後ろまで智くんの指が滑ってきて。
襟足をいじられる。
くん、と引っ張られて、口唇を離した。
智くんの口唇が赤く染まっていた。
ここしばらく顔色もよくなくて、口唇から色がなくなっていたのに。
その色がたまらなく懐かしくて。
智くんの耳の後ろに手を這わせながら、もう一度キスをした。
「海・・・・楽しみ」
ほんの少しだけ、顔色も良くなったようにみえる。
海までは1時間ほどかかった。
途中、外を見ながら、以前通ったときと変わった風景をいちいち数えていた。
あの店が変わった。
こんなところに家が建ってる。
林だったのが、伐採されたね。
「僕の知ってる道じゃないみたい・・・・」
海が近くなってくると、変わった所はほとんどなかった。
いつもの駐車場に車を停めた。
「砂浜に降りる?」
「うん・・少しだけでいいから・・行きたい」
レジャーシートを持って、智くんの手を引いて、浜への階段を降りた。