その日。
先に仕事が終わった僕はいつものスーパーでタコと山葵を買ってきてた。
最近、たこわさ食べてなかったな、って思いだして。
後は翔くんの好きな貝の刺し身。
時間が早かったから、値引きシールは貼ってなかったけど。
刺し身を皿に盛り付けるところまで準備しておいた。
あとは翔くんが帰ってくるのを待つだけ。
そろそろかな?って、思ったその時。
いつもは鳴らないインターホンが鳴った。
モニターを見ると、翔くん。
オートロックを解除して、玄関に出迎えることにした。
玄関ドアを半分開けて、体を半分出して、外を覗く。
エレベーターの方から歩いてくる翔くんは・・・
手に厚い台本を持っている。
付箋がいっぱいはみ出して貼ってある台本。
送迎の車の中でも読んでるんだろう。
バッグと台本を受け取って、置いた。
「おかえり、翔くん」
玄関の中に入ってくると、翔くんは僕の肩に額を付けた。
抱きつく・・・ほどには密着しないけど、腰に手を回してくる。
僕も翔くんの背中に手を回して、背中を撫でた。
しばらくそうしてたら、翔くんの背中からちょっと緊張が解けた。
はぁ〜と大きなため息をついて、顔を上げた翔くんはニコっと笑った。
「ただいま」
疲れてる翔くん。
今日は、きっといつもよりずっとずっと疲れてる。
いつもは鳴らさないインターホン。
普段は自分で鍵を開けて、リビングまで入ってくるのに。
今日はそんなこともしんどいくらい疲れてるんだね。
「おかえり」
たまには・・・こんなことしてもいいよね。
ベタだけど。
おかえり、お疲れさま、ってキスするの。
背中から肩に移した手。
翔くんにキスをした。