らんはあまり人見知りはしない方だと思うんだけど・・・
職人さんの工房に入ったときは、さすがに緊張してた。
僕たちも少なからず緊張してたと思う。
潤くんのおともだちから紹介された、一流の職人さん。
きっと気難しいんじゃないか?って思ってたから。
一流の職人さんなんだろう。
その工房には気持ちのいい緊張感があった。
ピンと張った空気。
シュッシュっと布地の上を走らせる刷毛の音。
僕たちが工房に入っても、作業のキリが悪いのか?
手は止めない。
その姿を見て、僕は感じた。
職人さんにいま、何かが降りてる、って。
らんが僕の服の裾をキュっと握った。
僕はらんの体を引き寄せて、肩を抱いた。
僕の体に隠れるようにして、らんは職人さんの作業を見ていた。
一心不乱なその様子に僕たちは声をかけそびれた。
お弟子さんかな?
頭に手ぬぐいを巻いた若い人が僕たちを隣の部屋に案内してくれた。
らんは作業の様子を見たがった。
僕も見たいと思ってたから・・・工房の作業場を二人で覗いていた。
刷毛から細かい筆に持ち替えて、何かを描いていた職人さんが手を止めた。
カタ、と筆を置く音がして。
すっと美しい所作で筆から手を離した。
次に大きく息を吐いた。
それは自分、に戻るための儀式のように見えた。
僕たち・・・じゃない。
らんに目を止めた。
「お嬢ちゃんだね?何歳かな?」
らんは右手で「3」をまだ上手く作れない。
曲げてしまってる薬指を左手で指を出そうとする。
なんとか3が作れて、職人さんに見せた。
「3歳か・・・・次の七五三っていうと・・・
あと4年近くはあるか」
職人さんは思案するように、顎に手を当てた。