いつの間に降りだしてたんだろう。
音もなく降る雨はその中を歩いていてもしっとり湿るくらい。
霧のような雨のような。
翔くんのマンションを出て、方向も確かめずに走りだした。
自分のマンションがどっち方向か、なんて。
知らない。
翔くんの優しい手。
その手が女の子にも触れたのかも、って考えたら・・・・
僕が知らない手に見えた。
息が切れて、足の運びを緩めた。
信号に表示されてる地名は通い慣れてる放送局のある地名。
キョロキョロすると、放送局のマークが見えた。
自分のマンションには翔くんが行ってるかも。
いや・・・あんな風に拒否したんだから・・・
もう翔くんは来ないだろう。
翔くんの家を飛び出してくるときに、バッグも持って出なかった。
携帯も財布も自分の家の鍵すらも持ってない。
自分の身一つ。
翔くんの家に戻らないことにはどうにもならない。
それでも・・・・今のこんな気分のまま戻ることもできない。
なんで・・・こんな惨めな気分になってるんだろう。
あんな記事は真実だとは思ってない。
だけど・・・・
俯いて足元しか見ずに足を運ぶ。
人がいたら、絶対ぶつかってだろうし。
車が多い時間だったら、絶対ひかれただろう。
それくらい、周りのことに気を回してなかった。
いきなり手首を後ろから掴まれた。
「智くん!」
翔くんの髪についた細かい水滴が街灯の光で光ってて。
綺麗だな、って思った。
翔くんの頭に手を伸ばした。
水滴は壊れて、翔くんの髪が濡れた。
「ごめん・・・」
翔くんが濡れちゃった。
翔くんに触れても、触れられてても気持ち悪さは感じなかった。
「帰ろう」
迷子の小さい子に言うみたいに優しくて。
ただ、頷いた。
翔くんが歩く方向に僕も一緒に歩く。
手はつないでなかったけど、翔くんのシャツの裾を掴んでいた。
僕は・・・迷子だったのかな?