部屋に戻る途中、智が翔の袖を引いた。

 

「翔くん、ちょっと出かけない?」

 

確かに部屋に戻っても、やることもない。

家の人に断って、外出することにした。

 

田舎の夜は賑やかだ。

虫の声、カエルの声、動物の鳴き声。

それも、道を歩いていくと、周囲では途切れる。

 

智はこの村を知っているかのように、先に先へと歩いて行く。

 

「智くん、どこに何があるか知ってるの?」

 

「知らないよ、初めて来た土地だから」

 

翔は少しの不安を覚えたが、智と一緒にいれば心配することはない。

とも思った。

 

突然そこだけこんもりと盛られているような森があった。

智は舗装された道から、その中に続く砂利の敷かれた道に入った。

道の両脇に大きな樹が並んでいた。

その道に入った途端、周りを囲む空気が変わったような気がした。

 

あぁ、ここは参道だ。

 

小さな村には似つかわしくない立派な朱塗りの鳥居が見えてきた。

翔と智はその先に続いた道の端を歩いていった。

 

鳥居の立派さに比べると、これが本殿?と感じるほどの質素さ。

小さくて、古びている。

それでも鈴から垂らされた五色の紐はまだ真新しく。

この神社にちゃんと人の手が入っていることは明らかだった。

 

 

「ここ、この村のお宮。

新入りとしては、来た日にご挨拶しておかないとね」

 

そう言って、智は柏手を打った。

当日に挨拶を、とこんな夜になってから参拝に来たにも関わらず。

おざなりにも見えるほど、智の参拝はあっさりしていた。

翔は二拝二拍手一拝の作法通りに参った。

お参りが終わったあと、翔はチラっと智を見た。

その様子を見て、智はくすくすと笑った。

 

 

「なんで笑うの?」

 

翔はなんとなく、不愉快になった。

自分の方がちゃんとした作法通りのはずなのに。

それがおかしいと笑われているような気になった。

 

智は来た道を戻りながら、いいわけした。

 

「僕のお参り、いいかげんだなぁ、って思ったんでしょ?

明治の時代に人が定めた作法なんて、神からするとどうでもいいんだよ。

真があれば。

僕は僕なりに神と向き合っただけ。

笑っちゃったのはね。

翔くんは真面目だなぁ、って・・・なんか可愛くて。

気に触ったんなら謝る。

ゴメン」