風邪が治ったサトシはしばらくの間、機嫌が悪かった。
口に出して言うことはなかったが・・・極端に言葉数が少なくなった。
世話をしていた看護師によると、ずっと俺がどうしているのか?
聞いていたらしい。
宿題をすませたあと、サトシと一緒にゲームをしていた。
ゲームをしている間は会話がなくても気にならない。
床に座り、後ろのソファーに隣り合ってよりかかって。
ゲームのキャラクターの乗った車を操作する。
きゅいーんと画面の中の車のタイヤが鳴る。
画面の車の動きに合わせて、サトシの体が動く。
右へ左へと傾いて。
俺の体を押す。
いつもより少しだけ早口で。
口ごもりながらサトシが俺を問い詰める。
「あのさ・・・翔ちゃんは・・・風邪ひいちゃいけないの?」
「そうだよ。病気の人と接しているからね。
その人に風邪をうつしたら、命に関わることになるかもしれない」
「じゃあ・・・そっちの部屋に行かなきゃいいのに!
風邪って苦しいんだね?
熱なんて・・初めてで。心細くて、翔ちゃんのこと呼んでも・・
来てくれなくて!」
サトシはハンドル型をしたリモコンを放り出した。
投げ出している俺の脚の上に向かい合って乗る。
画面の中で車がクラッシュした。
「だから、ちゃんと看護師さんに見てもらってただろう?」
「僕は・・翔ちゃんにいて欲しかったの!」
サトシは俺の首に腕を回し、しがみついてきた。
「寂しかったんだから!」
寂しかったのか。
今では手遅れなのかもしれないが、慰めになれば・・・と。
背中を撫でる。
「翔ちゃん・・・僕・・・
翔ちゃんが好きなの」
幼い子どもとだけ想っていた。
智くんのクローンだから、と大事にはしていたと思う。
サトシがそんな想いを持っていたとは考えたこともなかった。
触れる口唇は幼さを全く感じさせなかった。
智くんと同じ香りがする。
クラ、っと香りに惑わされた。
背中を撫でていた手をを腰に回した。
触れている口唇が離れないように。