サトシ4歳。
夕方、保育所まで迎えに行った。
同じ年頃の男の子が俺のことを見て、サトシを部屋の奥から呼んでくれる。
「サトシくんパパが来たよ!」
サトシは俺のことをちらっと見た。
口唇を尖らせて、何かを言いたげにしている。
何も言わずに、呼んでくれた男の子を乱暴に押しのけた。
男の子はきょとんとした後、サトシのことを同じように押し返した。
「なにすんだよっ!呼んであげたのに!」
サトシはキッとその子を睨みつけると、何も言わずに体当たりした。
慌てて、サトシを抱きとめた。
暴れて、なおもその子に向かおうとするのを、必死に止める。
4歳の子どもはこんなにも力があるものなのか。
保育所の先生も側に来た。
男の子にもサトシにも怪我はないようで、ホッとした。
サトシに謝らせようとしても、頑として謝ろうとしなかった。
部屋に戻ってから、サトシと向かい合った。
「サトシ、何があった?」
「・・・・・翔ちゃんは・・・僕のパパ・・なの?」
「違う」
不安そうな目でサトシが俺を見上げた。
「僕のパパとママは・・いるの?
なんで・・・准くんのうちみたいに・・
一緒にいてくれないの?」
「パパじゃないけど・・俺がサトシのパパの代わりだよ」
「ママは?」
「いつも部屋にいてサトシの世話をしてくれるだろう?
看護師さんと保育士さんがママの代わり」
納得してないな、と分かる顔をした。
「准くんが俺のことをパパって呼んだのが嫌だったの?」
「パパもママも・・・会ったことない。
パパ、ママって呼んだこともないのに!」
あぁ・・サトシは初めて感じた感情をうまく表せなかったのか。
おそらくパパもママもいる准くんが羨ましかったんだろう。
その後、何日かサトシは俺のことをパパと呼んだ。
それにちゃんと応えていたら、いつの間にか気が済んだらしい。
准くんとも仲直りをしたと先生に報告を受けた。