ある日、寝かしつけの後、部屋に戻ると、智くんが部屋にいなかった。
風呂にもトイレにもいない。
この部屋から行けるところはあと一か所だけ。
智くんと俺が生活している部屋には中庭が付いている。
そこそこの広さがある中庭で。
小さな湧き水があり、その周りを歩ける歩道とベンチ。
体調がいい時には、智くんはそこで過ごす時間を好んでいた。
最近は、熱が出ている日がほとんどなのに。
久しぶりに体調がいいのか?
俺も中庭に出るのは久しぶりだった。
智くんが一緒じゃないと、中庭には出ない。
リビングの隅にあるガラス戸を開けると中庭に出られる。
リビングの大きい窓から見ても、中庭に智くんの姿が見えない。
やや焦りを感じた。
中庭への戸を開けると、背中側から空気の流れを感じた。
数歩中庭に入ると・・・・ベンチに横たわっている智くんが見えた。
倒れている!?
「智くん!」
慌てて駆け寄った。
いつから、ここに倒れたままになっていた?
今日の朝早く、朝食を食べさせて・・・・
それからはサトシの部屋に行ったままだった。
「あ・・・おかえりなさい。
もう翔ちゃんが戻るような時間になってた?」
智くんの声がして、少し安心した。
「何してるの?」
「んふふ・・ホタル見てたの。
見られるの、この時期だけでしょ?」
視線を上げると、仄かな光がいくつもふわふわと飛び交っていた。
「ホタル見るために、中庭に出たの?
寒くない?」
夜は冷える。
智くんの肩に触れると、服が冷えていた。
「平気。ちょっと熱あるから、涼しいほうが気持ちいいんだよ」
ベンチの横に腰を下ろした。
智くんがホタルを眺めてる様子が、あまりにも綺麗だった。
ホタルから智くんに視線を下ろした。
ふと触れた指先が冷たくなっていた。
手の中に指先を入れて軽く握った。