「・・・そんなの・・いらない。
智くんが、あいつに作ってもらったもんだろ?
智くんが独りで食べればいい。

独りがいやなら、あいつと一緒に食べればいい。

智くんは・・・俺のところから出て行って・・
すぐに他のやつに乗り換えちゃうんだ?

数日間、ずっと智くんのことばっかり頭に浮かんで・・
俺が夜も寝るに寝られなかったなんて。
考えもしなかったんでしょ?

そりゃ・・そっか?
ちょっと誘えば、構ってくれるファンはたくさんいるもんね?

俺、じゃなくっても・・・よかった、ってことなんでしょ?」


シーン、と静まり返った。
頭の中を血液の流れる音が聴こえてくるくらい。
ドクンドクンと心臓が打つ音が聴こえるくらい。
その部屋を支配している緊張感がキーンという音になって聴こえた。

俺にしか聴こえていない、それらの音を切り裂くようにして・・
智くんの声がした。


「僕、じゃなくてもよかったのは・・・翔くん・・でしょ。
のんちゃんのハッシュドビーフ食べて。
プロポーズみたいなこと、言ったくせに。

僕が・・どんな気持ちで専属料理人の契約書作ったか・・
知らないくせに。

あの番組見て・・・僕がどんな気持ちになったか・・・
わからないくせに。


好きな料理を美味しく作ってくれる人なら・・・
翔くんは誰でもいいんでしょ?
誰にだって・・・結婚したい、って言っちゃうんだよね?

僕じゃ・・・なくっても」


俺の顔を見ないまま・・智くんは言い放った。
キツイ言葉なのに、言葉に滲んでるのは、疲労感。
疲労・・じゃなくて・・・諦め?

はぁ〜ってため息?深呼吸?して。
俺と視線を合わせた。



「のんちゃんのハッシュドビーフ。好きなんでしょ?
結婚したくなるくらい。

そこまで、言ってるんだから・・・食べなよ」