先達として、言わなきゃいけなかったこと。
オイラはあえて、あの時、話さなかった。

・・・話せなかった。


陰陽師として、生きていく以外にも・・・
選択肢があるってこと。


それは・・・ニノとの別れを意味する。
あの時・・・それは耐え難い。
そんな風に感じて・・・


ニノが引っ越してきて。
もう、前に住んでいた部屋の契約も数日で切れることになっている。

そんな、後戻りできなくなった状態にしてから、話す。
師匠のやりようではない。

分かってる。




「ニノは・・・陰陽師にならない、って道も選べる。
その道を選ぶなら・・・
この先、ニノが何事もなく、生きられるように・・
オイラはしてやれる。

ニノの力も・・・記憶も封印して。
ただの・・・力がない人間として、生きていくこともできる」


ニノがその道を望むなら。
今からだって、選べる。


どうする?
逸らしていた視線をニノに定めた。



動揺しているのが目に見えて分かる。
視線が泳いで、オイラの顔を見て。
さっきの仮祭壇を見て。

珠の存在を確かめるように、軽く握った掌を鳩尾に当てて。


俯いた。






長く・・長く感じた。
刻が・・止まってしまったような。
そんな静寂の中。

ニノもオイラも身動ぎもせず、声も出さず。
息さえも止めてしまっているんじゃないか。

そんな刹那のあと。
オイラの顔にピタっと視線を合わせた。





「陰陽師になります。
生まれつき与えられた力。
定められた道。

そこから逃げ出すようなことはしたくありません。

センセーにはご迷惑をお掛けすると思いますが。
弟子として・・・一人立ち出来る日まで。
よろしくお願いします」



ニノは姿勢を正して。
手をつくと、深く深く頭を下げた。




END