事務所に置いてあった私物は、後で処分してもらおう。
最後まで、センセーの手を煩わせることになるけれども。

自分で片付けようとはした。

でも・・・・

事務所での、いろいろな出来事が頭を巡った。
その記憶を、いらない、と捨てることになりそうで。


どうしても、できなかった。


持ちだしたのは、結局、今日持ち込んだバッグだけ。
あ・・・今着ている装束・・・ちゃんとクリーニングして、お返ししないと。


センセーには、自分については何も知らせてない。
住所も経歴も電話番号すら。

センセーがワタシに尋ねたのは、ただ、名前だけ。

それだけしか、ワタシのことを知らない。
今になって思うと・・・

こうなることが分かっていたから、知る必要がなかったんだな。
と、いうことが分かる。


重かった。
帰る足が重くて。
階段を登るのに、足が出ない。
やっとのことで、たどり着いた自分の部屋。


何もないその部屋の真ん中で、大の字になった。



装束が皺になる・・・なんて、考えかけて。
どうせクリーニングに出すから、構わないか・・

と、やけに冷静にこれからのことを考える自分もいて。



足を重くさせた気分と。
頭の芯まで冷えた理性と。


バランスが取れずに、揺れる。