「大野さん、今日の収録、ちょっと、休み過ぎでしたよ?」
「ん・・なんか・・他のことばっか、頭ん中、巡ってて・・」
「社会人失格じゃないですか?」
「・・・そう・・かもな」

二人で帰りの車に乗り込んで。
そんなことを、送られている車の後部座席で、とりとめもなく会話する。


「何で・・・そんなに頭の中、いっぱいにしてたんですか?」


運転手の方をチラッと窺った大野さんが・・・
ワタシの手の上に、その手を重ねて。
親指の腹で、ワタシの手の甲の奥に隠れている骨に沿って。

撫でる・・のでもなく・・擦る・・でもなく。
触れていって。


ワタシの中に・・・何かを・・残した。


声には出さなかった、答えが。
聞こえた。


自分の体温が・・上がった気がした。
俯きながら、おーのさんが口元だけで、笑ったのが見えて・・・

ワタシの心の中。
おーのさんには、読める?


二人きりで過ごせる時間。
ワタシが、どれだけ、楽しみにしてたか・・
分かってくれてます?


おーのさんも・・同じように思ってくれてますか?



手の甲を触れていたおーのさんの指が・・・
ワタシの指を一本一本。
同じように触れていって。


おーのさんに触れられているのは、手・・だけ・・なのに。


その感覚を一つも零さないように受けとりたくて。


目を閉じた。