そんな木があったら・・・そんな風に思ったことはありますか?
あなたなら、その木をうまく育てられますか・・・??



■ 序
現在進行形の絶望よりも、近い未来に確実に来ると分かっている絶望の方が不安を煽られる分、
心に重い。その『 絶望 』から次々と発生する不安は、俺の部屋の隅にいつも座っていた。
その不安を消すために何か『 希望 』を見つけようと焦っていたが、肝心の『 希望 』のカタチを
知らなかった。だから、ただ単に助けて欲しかった。
いつも何かに頼っていたかった・・・。


■ ノゾミなし
リビングの座椅子に座り、ポカーンとしている。テレビはついているが観たい番組は特にない。
手元を見る事すらせず、リモコンをポチポチと操作していると、お呼びでない番組たちが次々と
テレビに映り、切り替わる。
イラダチとアキラメの合わせ技一本で、テレビを消し、足を投げ出して仰向けに寝転がった。
タバコをくわえたが火を付けるのが面倒くさくて、生タバコを吸い込むが、当たり前にうまくない。
寝転びながら、缶コーヒーを手に取る。 重さがなく、空っぽだという事は分かっているが、唇を
付けて吸ってみる、やはり液体は何も残っておらず、スースーと鳴るだけだった。
缶に書かれた賞味期限を見る・・・ずいぶん先の日付が書いてある。その日付の中で生活を
している自分をイメージする事ができない。訪れることが無い非現実的な日付に見えて、
イライラした。

ここ10年は働くこともしていない。
そして、ちょうど1年前に身寄りが無くなり、俺は若干30歳にして天涯孤独の身となった。
そんなわけでニートと呼ばれる身分を返上しなければならない状況となった訳ではあるが、
そもそも働く気が無いからニートだったわけで、それは身寄りが無くなったからといって、
「よし、働こう!!」 とはならないのが自然の流れである・・・と俺は思っている。
幸いにも、両親が残した家はある。相続した遺産と呼ばれるものを頼り、清らかに慎ましく
暮らしていたはずなのに、すでに預金通帳の残高は50万円を切った・・・。

・・・さてと、このペースで行くと、俺は確実に詰む、チェックメイト待ったなし!!
積極的に敵陣に攻め込んだつもりは無かったが、知らず知らずに手は進み、今や
『 王手飛車取り 』に掛かっている状況だ。そして時間が経てば、確実に飛車は取られ、
いずれ王将も逃げ場を失う。そうなれば投了は止むを得ない。
つまり、ろくに戦ってもいないのに「負けました」と言いながら、人生をコールド負けで
終了してしまう・・・。

絶望だ、自ら招いた絶望だ。自業自得、仕方がないといえば仕方がない。


しかしながら、大したこともしていないのに人並みに未練があるのか、それとも単純な
生存本能なのか「もっと生きたい」と強く願う自分が心の中にガッツリと存在している。
生きるためにはお金が要る、そのためには働かなければならない。
でも働きたくない・・・しかし生きたい。欲望の迷宮をグルグルと、そしてダラダラと迷い、
リアルで辛い出口は見えないフリをし、おそらく存在しないハッピーな理想の出口を探し
続けている。


■ 2.神社
外に出るのは好きじゃないが、決まって15時に外出をする。目的は寝付きを良くするためだ。
一日中家にいると、決まって夜には自己嫌悪に陥る。
だから15時の散歩は、ヨコシマで不健康な健康法だ。

外は嫌いではない。空を覆う雲は厚く少し蒸し暑いのに、雨が降りそうな気配は無い。
文句の1つでも言いたくなるような中途半端な天気だが、それでも外は嫌いではない。
ただ1点、外を歩くと幸せそうな他人の姿を目の当たりにしてしまう点を除いては・・・。

自分が不幸であると、自分以外の人間は全員が幸せに見えてしまうという現象が発生する。
更に、自分が不幸であればあるほど、「俺もあんな風に幸せになりたいなぁ!!」という単純な
願望はグニャグニャに捻じ曲げられ、代わりに「アイツもコイツも自分みたく不幸になれ!!」
という嫉みを持つ。これはきっと自分自身を不幸な人間と感じる者には分かってくれる一種の
共通の悩みだろう。
この、いわば「不幸あるある」を語り合える相手がいれば良いが、相手がいないから尚更に不幸だ。
『 ちっ、目の前で手を繋いでいるカップル、どちらかの浮気でもバレればいいのに・・・。 』


この不幸の元凶を作り出しているのは、自分自身であると気付いているのに、素直にそれを
受け入れればやはり何も苦労しないわけで・・・では何が原因かと考えた時、俺の考えは
元凶の先の先の先の先にいる神様に行き着き、「神様が悪い!!」と小さく独り言をつぶやく。
やはり神様は不公平で不公正であると・・・。

今日の散歩中にも、そう思い至った矢先に神社があった。小学生の頃によく遊んだ場所だ。
当時から変わらないコンクリート製の鳥居をくぐり、神様に一言文句を言ってやろうと、
しずしずと賽銭箱の前までやってきた。

お賽銭を入れるのは不本意だが、多少なりともお賽銭を入れないと聞く耳も持ってくれないように
思ってしまう・・・こういう細かい心配性のせいで、俺は何かたくさんのものを損している気がする。
賽銭を投げ、ぶらりと垂れ下がった縄紐を前後に揺すると、カランガランと大雑把な大鈴の音が鳴る。
縄紐がゆらゆらと揺れ、その揺れが止まるのを待たずにギュッと目を閉じ、祈った・・・いや嘆いた。


「もし本当に神様がいるんだったら、俺を助けろ!!」


そのときだった・・・
目の裏側で身体をクラリと揺らされるような刺激が起こったかと思うと、その直後、背後から
変な声が聞こえた。


「なんか用かヨ。」
はたとして、後ろを振り向くと、そこには何かよく分からない者が立っていた。
パッと見で人間ではない、そしてピエロでもなかった。
・・・いや、ピエロだが普通のピエロではない。不気味なようで、不気味ではない。
非常識で、非日常的な風貌をしているくせに、話の通じそうな、また常識が通じそうな。
その者は、容姿と雰囲気が的確に矛盾していた。
その矛盾のせいだろうか、頭は混乱しているはずなのに妙に冷静な声が出た。



「・・・誰よ、あんた?」
「いやいや、テメエが呼んだんだろうガ。」
「は??」
「この神社の神だゾ。」
・・・死ぬほど胡散臭い。そもそもなんでピエロの格好をしているのかも分からないし、
自分で言うのも何だが、あの程度の賽銭と祈りで出てくるところもよく分からない。

「あ、テメエ疑ってんナ!?」
「いや、だって、あんたピエロじゃん。」
「ハハハ、確かにナ。実は今、SEKAI NO OWARIにハマっててナ。」
・・・
胡散くさいな。

「で、何? 何か困ってるのカ?」
「え?」
「俺を呼んだってことは、何かあるんダロ? 困ってる事、言ってみろヨ。」
「カネがない。」
「うわぁ、ノータイムで回答とか・・・しかもど真ん中にストレートだナ。」
「てめぇが言えっていたんだろうが!!」
まぁまぁ、人間の9割は何かしらカネで困ってるからナ。
「マジか!?」
「あぁ、先々月くらいの日経エンターテイメントにそう書いてあったゾ。」
・・・
すげぇ胡散くせぇ・・・。

「で、どうすんダ? 悪いが俺は現金とか不動産とかは出せないゾ。」
「んじゃ、何をしてくれるんだ?」
「もうちょいメルヘンチックな願いごとなら聞いてやってもいいゾ。」
「・・・メルヘンチックって何だよ。」
「ガラスの靴とか、食べてもなくならないカステラとかなら出せるゾ。」
「いやいや、なんかこう、もう少し役に立つものねぇのかよ。」
「図々しいゾ! ん~、昔話とかで出てくるものなら大体イケるゾ。」

昔話か・・・。
俺が子供の頃、両親は昔話全集を買ってくれ、テレビの横の本棚にはたくさんの昔話の
本が立ててあった。俺は『おやすみ』を言う代わりに、その中の一冊を手に取り、テレビを
見ている父に持って行く。 父は俺が眠るまで昔話を読んでくれたものだった。
そういえば、父は時々、昔話をアレンジして読んでくれた。
あの頃、俺はどんな大人になりたかっ・・・

「おい!気をつけろヨ、頭上のシンキングタイムメーターがあと15秒になってるゾ!」

「急にデカい声だすな!! つーか、シンキングタイムメーターって何だよ!先に言え、馬鹿!!」
「馬鹿とはなんダ!!クロックス野郎!!」
「うるせー、ピエロ野郎、自分こそ変なクツ履きやがって!!」

俺は引き続き、昔話で羨ましかった内容を必死で思い出そうとする。
ピエロはニヤニヤと笑いながら、自らの体をその場でゆっくりと左右に揺らした。
「ハイ、シンキングタイム終了~!!さぁ、願いごと言えヨ。」

わずかな時間の中で考えに考えた結果、大好きだった昔話をヒントにして答えた。
「・・・『 カネのなる木 』 が欲しい・・・これならどうだ?」
「おっ!!なかなか考えたナ。 OK!んじゃテメエの家の庭に植えておくゾ。」
「え。マジ!?そんな簡単に??」
「頑張って育てろヨ。じゃあナ。」


そう言うと、ピエロはアッサリと消えた。
灰色に霧がかった視界がスッと晴れたかと思うと、神社の境内の景色が鮮明に目の前に
広がった。先ほどまで鬱陶しい雲に覆われていたのに、雲の切れ間から青い空が見え隠れ
していた。
もう一度本殿に向かい、目を瞑り、手を合わせ、「サンキュー」と言うと、俺は小走りで
コンクリート製の鳥居をくぐった。先ほどまでのピエロとのやり取りが夢のように思えた。
その一方で、何かこう安心したというか、久しぶりにココロが楽になったような気がして
足取りが妙に軽かった。

家の鍵を開け、玄関からまっすぐ伸びる廊下を早足で歩き、裏庭に出る。
裏庭なんて溜まりに溜まった洗濯物を干す事にしか使わないから、雑草が生い茂って
いるだけの場所だ。あのピエロが本当なら、この雑草だらけの裏庭に『 カネのなる木 』が
生えているはずだ。
しかし、一見いつも通りの裏庭と雑草があるだけで、それと分かる木は生えていない・・・。
あのピエロは何かの幻かと思いかけた時、庭の端に30cmほどの若い木らしきモノが目に
入った。普段から裏庭なんて注意して見ないから、その若い木がこれまで無かったものか
どうかが分からない。
つまり、これが『 カネのなる木 』 である証拠はどこにも無いと思っていた・・・

その若い木にぶら下がるフダを見るまでは・・・。
 

 「 KANE NO NARUKI 」


 あのピエロの仕業だ。
(つづく)



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おまけ☆ピエロのイラストは、無理を言ってもくれんsanに描いて貰いました♪