全3回の続きものです。
1回目 → カネのなる木(1)

2回目 → カネのなる木(2)

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枯れた・・・。
木が枯れるなんて事を経験した事がなかったから単純に呆然とした。
枯れた植物は何度も見たことがある。しかし『 枯れる 』という動詞を目の前で体験すること、
それがこんなに寂しく、辛く、何よりもショックなことである事を俺は初めて知った。
皮肉にも枯れ木と化した、かつての 『 カネのなる木 』 の周りにだけ雑草は無く、それだけが
ポツンと立たされている姿は、寂しい情景を一層浮き彫りにしているように見えた。
その寂しさがたまらなく嫌で、目を背けたかった。
その亡骸を受け入れれないまま数日が過ぎた。それが復活することはない。それが当然で
あると分かっているが、やはり分かってはいない。その迷いこそが辛く、耐え切れないという
逃避的な理由から決断をすることにした。
ホームセンターで道具を買い揃えてくると、俺は木の根を掘り返し、幹はノコギリで細かく
切り刻み、それらを庭にばら撒いた。 木の幹はスカスカで悲しいほど簡単に切れた。
常識を知らない俺は、仏壇にある線香を数十本持ってきて、それを庭に続く縁側に置き、
煙を焚いた。念仏が読めない俺は、念仏の代わりとして、これまでの木の育成日記を
読み返してみた。
特に涙は出なかったが、やはり悲しい事に変わりはない。寂しさや虚しさの裏側に、
あの木に対する愛情や感謝が自分自身のココロの中に存在する事を感じた。
しかし、それを自覚する事が気恥ずかしく、自分自身に対してツッパっていたくて、
ココロの奥深くから湧き上がる温かい感情を否定し続けた。
線香の煙が消えた後も、線香の匂いはずっと香り続けていた・・・。
寝付きの悪い寒い夜だった。
改めて始まるこれからの希望の無い日は、眠りを更にさまたげた。 これまではたとえ嫌な
事があっても 「 俺にはカネのなる木があるんだ。 」 という心の支えじみたモノがあった。
しかし、その心の支えを失った。俺のココロには頼るものがなくなり、例えば穏やかな
夜の海の真ん中に独り放り出されたような、そんな孤独な孤独なキモチになった。
何か掴まりたいのに掴まるモノがない、誰かを頼りたいのに頼れる者はいない。
行動をしなければ海に溺れてしまうのに、アテもなくジタバタしても仕方ない恐怖。
他人が嫌いなのに、このザマだ・・・。
ご都合主義の自分勝手に嫌気を感じ、それが辛くて涙ぐみ始めたときだった・・・
自分が目を瞑っているのかどうか分からないが、仰向けで寝転ぶ俺を覗き込むように
再びあのピエロが現れた。 闇の中で見るピエロはまるでスティーブンキングの『イット』
のようでとても不気味だった。
「 ビビらすなよ!! いきなり出てくるとか、ホラーじゃねぇかよ、お前!!!」
「 ハハハ。 ん、何だ?お前泣いてんのカ?」
涙が流れているのか分からないが、とりあえず目をグシグシと拭う。
「 泣いてねぇよ!! それより、カネのなる木が枯れたぞ!!」
「 みたいだナ。しかしまぁ、よく頑張ったナ。」
「 は!?」
「 あの木をよく世話してたナ。少し見直したゾ。」
「 ・・・でも木は枯れた・・・なぁ、これから俺はどうしたらいいんだ??」
「 さぁナ。」
「 もう1本あの木をくれよ。」
「 ムリダナ。」
ピエロは自分の唇の前で人差し指をクロスさせた。
「 それよりお前、あの木でどれだけのお金を稼いダ?? 」
「 ・・・200万ちょっと。 」
「 だろうナ、あのやり方だと、そんなだろうナ。 」
予想の範囲内、それがまるで当然かのようにピエロは笑った。
「 おい、俺がもっと・・・ちゃんと育てたらもっと稼げたのか??」
「 いや、お前はちゃんと育てたと思うゾ。 うん、よくやってタ。」
「 お前、さっき 『 あのやり方だと 』 って言っただろ??」
「 言っタ。」
「 じゃあ、どうすれば良かったんだよ、教えろよ。」
「 考えろ、シンキングタイムメーターを30秒に設定してやル。」
「 ふざんけんな!!」
ピエロはその場で足踏みをしながら、クルクルと回った。何度も、何周も。
俺は考えるフリをしながらも、その一方でまじめにも考えていた。
木の世話は真面目にしたし、収穫も出来ていたし、一体何が悪かったのか。
「 シンキングタイム・・・終了~!!」
「 おい、早く答えを教えろ!!」
ピエロは今まで見た中で一番の笑顔をしながら、無表情に言った。
「 お前、今もカネが欲しいカ?」
「 欲しい!!・・・だから、どうしたら良かったんだよ!?教えろよ。」
「 じゃあ、教えてくださいと言えヨ、バカ野郎。」
「 ・・・教えて・・・下さい。」
不本意だが、一応頭を下げながら、とりあえず言った。
「 よし、いいだろウ。お前があの木から収穫した金額はいくらだっタ?」
「 だから、200万ちょっとだって言ったろ!」
「 2年半で200万円カ・・・。 それはお前1人で収穫した金額だナ。」
「 あぁ。」
次にピエロは俺の目玉の裏側まで見通すような眼力で俺を見つめ、口を開いた。
「 んじゃ、他人を使ったら、もう少し儲けられたと思うカ?」
「 は?・・・他人? 金を払えば手伝ってくれるだろうけど・・・一人でも世話出来たし。」
「 お前、バッカだなァ。だからそれだけしか稼げないんダ。」
「 なんだよ、仕方ねぇだろ!! それにやれる事は出来る限りやったつもりだ。」
「 あぁ~あ、まだそんな事言ってやがル・・・お前には木が何本あっても足りないナ。」
「 じゃあ、どうすれば良かったんだよ、他人を雇えば良かったのかよ?」
「 ・・・あのナ、よく考えロ。 カネはどこにあル?」
「 は??」
ピエロはため息をゆっくり吐き、少しだけ呆れたような声を出した。
「 カネってのは、自然界にあるものじゃないだロ?」
「 ・・・まぁ人間が作ってるものだからな。」
「 じゃあ、カネを持ってるのは人間だロ? つまり他人が持ってるんだろうガ。」
「 あぁ。」
「 んじゃ、カネが欲しけりゃ、他人から金を集めるしかないだロ。」
「 ん?」
「 だからナ・・・あの木にカネの花が咲いた時にナ・・・」
「 おう。」
ピエロは目の前にいる俺の顔をゆっくりと確認するかのように見た後、
不思議な微笑みを浮かべながらゆっくりと口を開いた。。
「 売れヨ。」
「 は??」
「 例えば公表するんダ、TVとか新聞とかマスコミとか目立つメディアにナ。
そうすりゃ、お前の周りに人が集まるだろうガ!!」
「 そりゃまぁ、珍しいからな・・・。」
「 そう、珍しいこと、人が集まル。 それがあの木の最大のチカラだロ?」
「 まぁ、テレビにも出られるだろうな。」
「 出れるナ。それをきっかけに、有名になり、頃合を見計らってあの木を売ル。」
「 誰に?」
「 知るかヨ、オークションに掛けるとか、植物研究所とか色々あるだロ!!」
「 いくらで?」
「 仮にも世界に1本しかない不思議な木だゾ、お前の言い値だロ。これだけで結構な
額になるゾ。研究所に貸して毎月カネをもらうだとか、それに乗じて研究所の職員に
なるだとか、色々あるだロ?少なくとも1人で木を育てるよりもカネになるだロ?」
「 ・・・そんな事、そんな事してもいいのかよ?」
「 お前が持ってる武器はあの 『カネのなる木』 しかねぇだろうガ。他になんかあんのかヨ。」
「 ・・・。」
「 なら、その武器使えヨ。そして最大限に他人を惹きつけロ!そして他人のカネを集めロ。」
「 ・・・。」
「 どうしタ?いつものゲスらしくないナ。」
「 だってさ・・・。」
何か釈然としない俺に対し、ピエロは鼻でため息を付いた。
ピエロは何か言いたげだったが、俺はピエロの顔を正面から見れなかった。
俺は「カネのなる木」を上手に育てる、イコール、金持ちになる事と思っていた。
でも、今ピエロが言った事は違った。 「カネのなる木」の珍しさが最大のチカラだと。
確かに結果的に見ればマスコミに売り込んだ方が金になったのかも知れない。
あの木は、なまじ現金が直接生えるから分かりにくいが、もしあの木が世界で一番
おいしいフルーツが収穫できる木だったら・・・宝石のような実がなる木だったら・・・
俺はどうしていたのだろうか・・・?
「 あ、ヤバいナ。 もう時間がないゾ、最後にちゃんと言うからよく聞けヨ。」
ピエロは一番の優しい顔で、そして一番真面目な目で俺を見た。
そして、淡々とした口調で話し始めた。 早口だったが、俺にわかるように
丁寧に説明をしてくれているんだ・・・そんな感じの話し方だった。
「 いいか・・・よく聞けヨ。」
「 お前がやった 『 カネのなる木 』 を育てるなんて事はかなり特殊な例ダ。」
「 なぜなら、他人と関わるコトなくカネを得るなんてコトは普通無いだロ?」
「 直接的、間接的はあれど、どっかで他人からカネを集めてるんダ。」
「 あの木を一生懸命育てても、1人で産み出せるカネは、たかだが知れてたロ?」
「 カネを得るってコトは、人を集める事ダ。そして、その中心にいかに立てるかって事ダ。」
「 お前の大嫌いな弁当屋の店長だって、弁当屋で働く人間の真ん中にいるから
お前よりも多くの給料を貰っていたんだゾ! それに気付ケ。」
「 例えば、歌手だって歌がそのままカネに化けるわけじゃないだロ?その歌を他人が
買うからカネになるんダ。歌が魅力的だから、人はその歌手に集まって来るんダ。」
「 音楽も、漫画も、映画や商品・・・なんだってそうだロ?」
「 魅力的なもの、人を惹き付けるモノには、人が寄ってくるんダ。」
「 だから、次はお前のチカラで魅力的なものを作レ。人が集まるようなものをナ。」
「 それが 『 カネのなる木 』 を育てるってことダ。」
「 気付いたカ?覚えたカ?理解出来たカ?」
「 なら、そろそろ起きろヨ。」
「 え?」
「 これだけ教えてやったんだゾ。次は賽銭箱に1000円札くらい入れろよナ。」
「 おい、ちょっと待てよ、ピエロ!!」
「 大丈夫ですか!?」
「 おい、待てよっ、ピエロ!!」
「 大丈夫か!?」
目を開けると、そこには2つの他人の顔があった・・・。
「 ・・・大丈夫か?」
初老の男性はそう言って俺を心配そうに見た。
「 ここがどこか分かりますか?」
若い女性はそう言って俺を心配そうに見た。
4つの目玉が暑苦しくて、俺は起き上がった。
そこは小さな和室で、自宅ではない。それだけは確かだった。
見慣れない景色と匂いだった。
「 ここは・・・どこ?」
「 あぁ・・・やっぱり救急車を呼ぼう。」 初老の男性が言った。
「 いや、マジで、ここはどこなの??」
「 ここは社務所です。あなたは賽銭箱の前で倒れていたんです。覚えていませんか?」
「 ん??」
「 君が本殿の大鈴揺らした拍子に、大鈴が外れて君の頭を直撃した。
それで君は意識を失ったんだと思われる。本当に申し訳ない。」
初老の男性と若い女性が、ふたり揃って畳に手の平を付き、頭を下げる。
「 ・・・あのさ。」
「 いや、できる限りのお詫びと治療費は出させてもらう。」
「 そうじゃなくて・・・」
「 だからなんとか許して欲しい。」
「 いや・・・だからそうじゃなくて!!」
「 なんとか穏便に・・・」
「 いや、あのさっ!!!!」
大きな声を出したら、頭がズキズキする。 俺は顔をしかめた。
だから、次は静かに喋った。
「・・・今日は何月何日なの?」
2人の他人は、キョトンとして、次の瞬間やはり救急車を呼ぶべきだったと
落胆の表情を見せた。その上で、女性は諦めたように言った。
「 4月20日です。」
「 何年?」
「 2015年です。」
「 マジか!?」
巫女と思われる女性の表情とは真逆の表情で俺は声を上げた。
「 あの・・・大丈夫ですか?」
どこかで見た事のある表情と、前に一度聞いた事のある言葉だ・・・
だから、大丈夫、 次はうまく返事できる!!
「 大丈夫、ありがとう!!」
「 ・・・一応病院に行った方が・・・」
「 あぁ、確かに・・・。 でも、今はそれよりも早く家に帰らなきゃ。」
「 あの、何かあれば、連絡くださいね・・・我々もできる限りの事はしますから・・・。」
「 サンキュー、ありがとうね、2人とも。また御礼に来るから。」
「 ・・・御礼?」
初老の男と若い女は、不思議そうに顔を見合わせた。
数年前に出たはずのコンクリート製の鳥居をもう一度抜ける。
足取りは軽かったけど、反面これからの課題とか障壁を考えると気は重かった。
しかし、ココロの中には希望と、それへの依存が確かにあった。
当然ながら、「カネのなる木」は裏庭には無いだろう・・・雑草が覆い茂って
『2年半前』に干した洗濯物があるだけで、そこはただの裏庭のはずだ。
でも自分の中に支えとなるようなものがある気がした、確かにある気がしたのだ。
知らず知らずのうちに自分自身が作り出した 「絶望への依存」は、もう無かった。
まっすぐ家に帰る道中に一軒の大きな花屋がある。
店先には大きな観葉植物が飾ってあった・・・ふいにその植物に付けられたフダを見る。
『 幸せの木 ドラセナ マッサンゲアナ 』
その木はあの木に似ていなくもなかった。
俺は途端に嬉しくなって財布にあった紙幣を使い、その木を抱えて家路を急いだ。
まっすぐ家に帰る道中に一軒の大きなパチンコ屋がある。
店先にはパチンコ屋業界では有名なピエロが描かれたポスターが貼ってあった。
そのピエロはあのピエロに似ていなくもなかった。
「見てろヨ!!3年後には、賽銭箱に札束を入れてやるからナ!!」
俺はあのピエロの口調を真似して、アハハと笑った。
(おわり)
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おまけ ☆ 大学ノートの表紙を2冊分、使ってしまいましたよ。


