昨日は御所駅から出発して飛鳥の真弓丘陵の古墳を見に行った。

御所駅はこれで、多分３度目か４度目になる。私は奈良ハイキングで奈良の「悲しい面」はあまり触れないことにしているが、今回は少々触れる。JR御所駅近くのいわば駅前商店街、シャッター通りどころではなく、「廃墟化」が進んでいる。願わくば再開発して賑わいある町にして欲しいと願わずにはいられない。

駅からすぐの路地。かつてはちょっとした飲み屋などが並んでいたであろう場所。家が取り壊され空き地になったり、崩れゆく家がそのままになっている細い路地。人口減少と経済活動の変化とともに人の流れが変わった結果であろうとは言え、寂しい思いが拭いきれない。

気分を新たに歩く。御所市役所側から金剛山を望む。山はうっすらと雪化粧。奈良の景色は本当に素晴らしい。ふと足を止めて見惚れてしまうところが至るところにある。

熊野神社：修験道の祖、役小角生誕の地である吉祥草寺の守護神とした神社だそうだ。

それほど大きくない社の千木は、やはり外削ぎ。この神社、祭神に、イザナギではなく、イザナミという女神も祭っているのだが。

役行者（役小角）生誕の地にある吉祥草寺。説明書きを読んでびっくり。役小角開基とされるこのお寺。境内は、東西４キロ、南北５キロあったという。これでは、吉祥草寺自体が一つの「都」のような広さである。う～ん、ちょっと想像しにくい。あの広大な敷地を誇る春日大社でも単純計算すれば、実質的には東西１キロ、南北１キロちょっとくらいか。舒明天皇創建となっているから時代は６世紀前半。寺を一つ作るというより一つの町、一つの共同体作りの感もある。

役小角開基というだけに、修験道・仏教・神道すべてを取込んだ、日本の神仏習合の象徴のような一角。経塚と神木が並んである。明治政府は神仏分離を強力に推し進めたが、結局、無理であった。日本人の心性に合致しなかったからである。今日では、古代どころではない。アニミズム・神道・仏教・基督教なんでもあれの、宗教と言えないような宗教心に支えられているのが日本の宗教と言うべきであろう。日本は実に面白い。

役小角ゆかりの吉祥草寺を後にして、欠史八代と言われる天皇の一人である孝安天皇陵に向かう。天皇陵に至る途中の山腹にある鳥居と小さな社。どのような神を祀っているのか見たが、良く分らなかった。ただ、鳥居がシンプルな神明造りで、社の千木が内削ぎ。奈良に珍しく、伊勢神宮的。どのような神を祀っているのか一層気になったところ。

近くで写真を撮ったが、普通は書いてある神の名前がない。御所市に問い合わせてみようかな。

孝安天皇陵。「欠史」と言われるためか、この陵には普通ある立札の説明書きがない。どこかにあるかと思って注意して見たが目に入らなかった。この陵のある山。神社があったのだが、そこにも神社名や説明書きがなかった。地元の人がたまたまいたので、聞いたところ、天満神社と金比羅神社とのことだった。

孝安天皇陵から金剛山方面を望む。景色は抜群だ。大和王朝の前に「葛城王朝」があったという説もあるが、それはあるかもと思わせる陵である。天皇家は有力豪族に支えられていた。葛城氏は古代天皇家を支えた最も古い豪族だ。葛城を歩いていると、葛城氏に興味が一層沸いてくる。

孝安天皇陵から掖上鑵子塚（わきがみかんすづか）古墳に向かう。この古墳は孝安天皇陵が丘陵の「上」にあるのに対して、丘陵の「谷間」にある。こんなところにも「天皇家」と「豪族たち」との差違を示しているのかもしれない。「国見」をする立場の人間とそうでない立場の人間との違いを示しているのかもしれない。「鑵子塚」というのは、ここの他に飛鳥駅の西側丘陵にもあった。こちらは渡来系「豪族」だったが、やはり見晴らしはあまり良くない場所にあった。

御所市を後にして高取町の道を歩く。途中にあった古墳。整備中の乾城（かんじょ）古墳。天井が一枚岩の巨石。

乾城古墳でお昼を食べていたおばちゃんたちに教えて貰った貝吹城跡。急ぐ旅でもない。登ってみるかと思って登ってみた。

この貝吹城跡。登って良かった！実に風光明媚。奈良の神社や山城、登るのは大変だが、頂上からの景色はほんと素晴らしいところが多い。たまたま頂上にいた人に聞けば中央右側の山は畝傍山とのこと。畝傍山は東西南北から何回も見ているのだが、畝傍山とすぐ分らなかった。まだまだ修行が足らない。この山城跡、地元の人に愛されているようで、頂上には詳しい「手書き」の説明を書いた立札があった。

高取町を抜け、飛鳥村に入る。飛鳥駅の西側の丘陵にある、一説に被葬者は斉明天皇と言われる牽牛子塚古墳（けんごしづかこふん）。現在は整備中ということでこんな格好になっているが、この天皇陵からは飛鳥地方が一望でき、ここも実に風光明媚。それにしても古代の人々の「巨岩」を運び上げる技術には恐れ入る。飛鳥と言えば、蘇我馬子の墓と言われる「石舞台」が超有名だが、それほどの巨岩でなくとも何トンもある石をいくつもいくつも積み上げていく。凄いものだ。

飛鳥が一望できる牽牛子塚古墳とは山を挟んで反対側にある真弓鑵子塚古墳。ここの古墳の名前も鑵子（かんす）。掖上鑵子塚古墳も「豪族」の墓と推定されているが、こちらの真弓鑵子塚も「豪族」、それも渡来系豪族の墓ではないかと推測されている。古墳が朽ち果てているだけではない。この古墳からの眺めは少しも素晴らしくないのである。天皇家の墓と豪族の墓。いくら権力を握っても天皇家に取って代わろうとしなかった古代豪族たちの墓。明るい太陽の光が降り注ぐ山の東側の墓と西日しか差さない西側の墓。ほぼ同じような場所にあるだけにその明暗に古代天皇家と豪族の関係を見る思いであった。

飛鳥駅の公衆トイレ。ホテルのトイレと見間違えるほどだ。飛鳥がいかに観光に力を入れているかが実に良く分る。水道は、お湯が出ていた。

マルコ山古墳。この古墳も飛鳥駅の西側の丘陵にある。

マルコ山古墳は被葬者は明かではないが皇族であることには間違いがないようだ。皇族の墓であればこそか。確かにここからの風景も非常に良い。斉明天皇陵であろうとされる牽牛子塚古墳からも飛鳥を一望できるが、ここからも飛鳥が良く見える。このような埋葬地は皇族の特権となっていたのかも知れない。そんなことをつい思ってしまうほど、良い景色なのである。

マルコ山古墳の近くには、春日神社というそれほど大きくはない神社の境内に束明神（つかみょうじん）古墳というのがあった。この神社は千木のない形式の神社。

これが古墳。説明書きがなければ、ただ土が盛ってあるだけにしか見えない。ここも生い茂る木がなければ、飛鳥方面が見渡せるはず。ただ、この古墳は山間をだいぶ入ったところにあり、牽牛子塚古墳やマルコ古墳ほどは見晴らしは良くない感じである。被葬者は持統天皇が大津皇子を謀略によってでも死に追いやり皇位につけたかった草壁皇子かとも言われている。

束明神（つかみょうじん）古墳は飛鳥から高取町へ抜けるちょうど峠あたりにあり、ちょうど峠を超えたところに、陵があり、こちらも草壁皇子の陵となっているが、こちらは岡宮天皇の名前のもとに立派な陵になっていた。

岡宮天皇陵は飛鳥ではなく、高取町方面が一望できる場所になっていた。

丘陵を下ったところから金剛山方面を望む。山が手前から奥へ奥へと連なっている。「大和は国のまほろばたたなづく青垣山こもれる大和しうるはし」の「たたなづく」が実感できる。

草壁皇子の陵かと言われる高宮天皇陵を後にして、壷阪山駅へ向かう。もう少し歩きたかったのだが、何日か前に挫いた足首が完治していなかったようで、歩き方によって足が結構痛かったので、無理せずこの駅から帰ることにした。

今日は、無理せず歩いて、途中脱落の形で帰途についたが、それでも総歩行距離は20キロを超えていた。

御所から飛鳥を歩く