１２月３０日、今年最後の１日ハイキングはこの駅から出発。

JR大和新庄駅からそれほど遠くない近鉄新庄駅のすぐ側にある柿本神社。「万葉集」第一の歌人。歌聖とも称される柿本人麻呂を祭る神社。この神社、今では寂れているが、すぐ隣に柿本神社をお守りする神宮寺的役割を担った影現寺という寺もある神社。

これが影現寺。この寺の創健者は、由緒書きによれば、空海の弟子、柿本人麻呂の又従兄弟の真済上人という人。ただ、柿本人麻呂が活躍したのは７世紀末であり、真済上人がこの寺を建てたのが、858年ではいくら又従兄弟とは言え、時代が離れすぎていないであろうか。歌聖柿本人麻呂を慕う人がすでにあった柿本神社をお守りしたいという思いから神宮寺としてこの寺を建てたことは十分考えられるが。ここも神仏習合の典型的な形となっている。

次の目的地へ向かう途中にあった住吉神社。奈良を歩いていると「春日神社」はいたるところにあるが、「住吉神社」も結構あるかも。

神社へ行くと、拝殿の奥の本殿をすぐ覗くのが癖になっている。それというのも神社の解説本には、千木は男神は「外削ぎ」、女神は「内削ぎ」と一般的に書いてある。ところが、奈良を歩いていると女神を表す「内削ぎ」は滅多にお目にかからない。天皇家の祖先神を祭る伊勢神宮が伊勢にあったとしても、アマテラスを主祭神とする神社が奈良に多くあっても良さそうだが、なかなかお目にかからない。

このようなこともあり、私は「萬世一系」「男系継承」の支持者であり、「女系」などもっての他であるという思想の持ち主なのだが、記紀の「天壌無窮の神勅」に対しては、記紀編集者（実質的には藤原不比等らしい）が人工的に創作した一文を挿入した可能性を払拭できないのである。戦前なら非国民、逆賊、刑務所行きなのだが、私の疑問の一つであるこの問題も疑惑は深まるばかりなのである。

次のメインの目的地である葛城坐火雷神社（笛吹神社）へ向かう途中の風景。葛城山麓ののどかな風景だが、ここでも標高は200メートル近くあるのではないか。葛城一族が拠点としたところは葛城川からかなり標高の高い地点なのである。右手に見えるのは、博西（はかにし）神社。葛城氏教育委員会の説明書によれば、中世にこの辺りを支配した布施氏の氏神を祭る神社だったとのこと。大阪には「布施駅」というのや「志紀駅」などという駅名があるが、これらは古代豪族の名前を今に残したもののようである。私の名前の「新家」も駅名があるが、残念ながら読みは「しんげ」であり、「にいのみ」ではない。

博西神社。これも日本人の漢字表記の融通無碍さを表したものかもしれない。「博西」は、元来はこの近くの屋敷山古墳の「西」にあったことから「陵西（はかにし）」「墓西」などと表記されていたようだが、縁起が悪いと思ったのか「博」に書き換えたようだ。私の名前が「博」ということもあるが、なんとなく落ち着きの悪い神社名の気がしないでもない。

東の「山辺の道」に匹敵する西の「葛城の道」は、ハイキングにとても良いコースになっている。この写真では良く分らないかもしれないが、畝傍・耳成・香具山の大和三山が良く見えるのである。現代から見れば、標高200メートル近くもある葛城・金剛山麓に居館、拠点を築くのは生活に不自由極まりないと思われるが、古代の頑強な身体を持った人間たちには現代人が思うほど不自由を感じていなかった可能性が高い。それよりも奈良盆地を遠望できること、つまり「国見」ができること、防御機能が高いこと、それらの点の方が高地を拠点とする主要な要因だったのであろう。いつも思うが奈良は絶景ポイントが至るところにある。

山麓から望む葛城山ロープウエイの山頂終着駅の建物。この写真、ちょっと墨絵的。

やっと到着。葛城坐火雷神社（笛吹神社）。

この神社がちょっと気になっていたのは、「笛吹」が「楽器」の笛を吹く人たちが祭った神社なのか、それとも鍛冶職人たちが火を起すための「鞴（ふいご）」が「笛」に変わったのか、その可能性が高いかもと思っていることと、この神社が「尾張氏」の祖先神でもあること。「尾張」と言えば、名古屋だが、名古屋の近くには熱田神宮もあり、ここには三種の神器の一つの「剣」がある。「尾張」と「葛城」は縁が深そうだ。

また河内には聖徳太子一族の御陵が数多くあることからも分るように、都の飛鳥から河内には葬送の道と言われる竹内街道があり、その街道が山道を下り、葛城の道を通り、飛鳥へと繋がっている。その途中の村に葬送の儀礼として「笛吹の人たち」が居住し、そこに祭った神社が「笛吹」神社となった可能性はある。

この神社、さらに気になるのは祭神の一柱が「天香具山命」となっていること。名前からして「男神」なのだが、「天香具山」は一般的には「女性」を象徴しているように思われるが、実は「天香具山」は「男神」だとすると、あの有名な「香久山は　畝傍ををしと　耳梨と　相争ひき　神代より　かくにあるらし　古へも　然にあれこそ　うつせみも　妻を　争ふらしき」という歌。この歌、実は「男」を争ったのか「女」を争ったのか分らない。しかし、もし「天香具山」が「男神」で、耳成山も「男神」だとすると「女神」は畝傍山となってしまうが、どうも畝傍山を「女神」とするには抵抗がある。取り敢えず謎なのである。いろいろ気になることの多い「笛吹神社」である。

この笛吹神社には日露戦争で使用された大砲が置いてあった。

次に向かったのが角刺（つのさし）神社。この神社、小さな神社だが、飯豊「天皇」を祭る神社である。飯豊青皇女を記紀は「天皇」とは認めていないが、地元の案内書きでは「飯豊天皇」となっている。

宮内庁では飯豊「天皇」を認めているのか「飯豊天皇陵」となっている。

この「天皇陵」、結構大きかった。

ここで葛城周辺を去って、久米寺へ向かう。久米寺は畝傍山の神武天皇陵の近く。途中にあった古墳群。今回初めて行ったが、古墳が非常に数多くあり、この一帯は「公園」として整備されていた。

これらの墳墓はこんな感じで古代には数多くの墳墓があったことが分るように整備された墳丘墓群。

しっかりと広報活動もやっている。私は今回初めて知ったが、相当有名な古墳群のよう。まだまだ奈良は知らないとこだらけ。

次に向かったのが久米仙人ゆかりの久米寺。久米仙人で私がいつも思い出すのは、本当かどうかは別にして、神通力を得て空をも飛べるようになった久米仙人。ある日、川で美しい女性の露わになった脚を見て、空から墜落したという話。こんな話が大好きな日本人には、心の中で女を想像しただけで「姦淫」だというキリスト教や、女を見れば必ず情欲を起す。よって女は見られないように頭から爪先まで身体をすっぽり隠せというイスラム教が根を下ろす土壌はないのである。「仙人様も美しい女の肌には勝てないや！」と喜んでいるのが日本人であり、日本人の「真の」思想なのである。

久米寺にも「金比羅」。奈良を歩いていて気づいたが、「金比羅」は結構ある。＜奈良ー難波ー香川＞の交易ルートがいかに盛んであったかを思わせる証拠なのかも。

久米寺、思ったより立派な寺であった。

畝傍まで来たら寄らないわけにはいかない。今回はちょっと立ち寄るだけになったが、伊勢神宮を参拝。拝殿から見た本殿の千木。なぜか正面に見える。この千木、どこか威風堂々という趣きで神武天皇の「武神」の面を強調しているようにも見えた。明治維新を成功させた薩長などの若き草莽の武士たちの志を反映しているのかも知れない。

橿原神宮の畝傍の森の中の道路。車が頻繁に通るが、「森の中」を歩いている感じは味わえる。神社と森は日本ではワンセット。

江戸時代の風情を保存している今井地区に到着。時間は夕暮れ時になっていた。

お城のようなこの建物。建物の主は、今井町の環濠集落をつくった十市一族の家系の今西家。以前来た時には知らなかったが、この十市一族、奈良の東南の山城である竜王山城を築造した一族。なるほど、城造りも町造りも経験ある一族の者の手になるものであったか。

いよいよ日も暮れかかり夕焼け空を見ながら最寄りの駅へ急ぐ。

JR高田駅に到着したときにはすっかり日は暮れていた。

本日の総歩行距離は、３５キロを超え、今年の最高記録。この調子なら来年は目標の１日40キロも遠くない。

葛城を歩く