<本日のテーマ> 「コト」から「モノ」へ(2)

2月7日のブログで詳しく説明したが、まだまだしっかりと認識してくれていない人が多いので、さらに例を挙げて述べておきたい。

受験生諸君には、日本語の「コト」構文に引きずられると、いかにひどい英文になる場合があるか、また、「モノ」構文、つまりSVOに持っていくと、いかに英作文が楽になるかを認識して欲しい。

では、次の名古屋大学の英作問題のM君の作例をで見てみよう。

[問題]
今なら動物にだまされる方が不思議に思われるかもしれないが、当時のこの村の人たちにとっては、だまされないことの方が不思議だったのである。

[M君作例]
When you hear that people in this village were cheated by animals you may find that story strange. However, people in that story thought that animals often cheated them.


M君の訳の問題点は第1文後半のyou may find that story strange である。
このような不自然な英文をくっつけなければならなくなった理由が分かるだろうか。それは日本語の「だまされる方が不思議」の「だまされる<コト>」のバリエーションである「方」に引きずられ、せっかく a story 「話」という言葉を思いつきながら、残念な訳に終わっている。1文後半が崩れたために第2文目も無残な姿をさらしている。

これをどう<モノ>構文にするか。M君はせっかくa story「話」を思いついたのである。では、「~という話」ではなく、「~した人の話」とすればよいのである。「人」というモノを持ってくればM君の英作はすぐ次のように書き直せる。

Stories of people who were cheated by animals sound strange to you,

このようにして「人々」というものを持ち出すと後半も次のように書きやすい。

But stories of people who were not were much stranger to those living in this village in those days.

さらに例を出すので、自分でもどこをどう「モノ」に変えたら都合がよいか考えてみて欲しい。次の例はNさんの自由英作文。「コト」思考のために英文が崩れてしまっている例である。課題のテーマは「騒音を現代人は減らすことができるか」であるが、Nさんが言いたかったことの一部を日本語で先に示しておく。

[Nさんの言いたかったこと]
目の悪い人は、通りを歩いているときに何かの音を聞くことによって車が自分の側を通り過ぎるのを理解するので騒音は減らすことはできない。


Nさんは次のように英文を書いた。

For blind people, we can’t reduce noise completely because they understand that cars are passing their side by listening to the noise when they walk in streets.


これのどの部分が「コト」思考か分かるだろうか。次に行く前に、ちょっと考えてみて欲しい。

考えて、これを次のように「和文和訳」した人は少し分かってきている。

私たちは音を減らすことができない。なぜなら私たちの社会には目の悪い人がたくさんいる。彼らはなにか音がないと側を通る車に気づかないからだ。

分かってもらえますか。「車が通るコトが分かる」を「通る車というモノに気づかない」とすればよいのである。

この「和文和訳」を英訳すれば次のようになる。

We can’t reduce noise completely because we have a lot of blind people who cannot notice cars passing by them while walking on the street without any noise which the cars produce.

では、最後にさらにもう一つ、これも自由英作文で「コト」思考が妨げになった例を見ておこう。

[課題文]
「子供は親の背中を見て育つ」という言葉があります。それでは、親というものは子供にどのような「背中」を見せるべきではないと思いますか。(2010年・阪大)


次のはU君の解答例の出だしである。この英文のどこが「コト」思考に引きずられているか分かるだろうか。少し自分でも考えて欲しい。

I think that parents should not show for their children that they get angry because of trivial reasons.

私のように日本文の「コト」思考、英文の「モノ」思考ということを常に考えている人間にはU君の英作から「コト」思考が匂いだってくる。U君は次のような日本語を考えたのである。

両親は些細なことで怒るところを子供に見せてはいけないと私は思う。

U君は課題文の「どのような「背中」を見せるべきではない」の「背中」に引きずられ「~する姿、~しているところ」という「コト」的思考の罠に落ちたのである。これが罠だと気づけば、次のように簡単に自分の日本文を和文和訳してSVO構文、つまり「モノ」構文に持っていける。

Sは「親」、V「怒る」、O「何に」とし、さらに「些細な理由」を「目的語」を意識して、「些細なことで」に変え、後に「たとえば」として具体例を持ってくればよい。

親は子供の前でささいなことを怒るべきではない。たとえば・・・

これを英語にすれば、

I don’t think that parents should get angry at trivial things in front of their children. For example, …

ここで、再度強調しておこう。英語は<モノとモノを動詞が結びつける>言語、つまりSVO構文が主だということ。日本語は、「モノ」と「コト」の二大範疇があり、「コト」に関わる言葉や構文が出てきたら「モノ」に置き換えできないか、一度は考える訓練をすること。英訳の前にこの和文和訳に成功した人は得点率がぐっと上がるはずである。