イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む、を読む | 沈みかけ泥舟のメモ

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英国婦人の冒険家、イザベラ・バードが1878年に日本にやって来た時の記録をまとめた本、
「日本奥地紀行」をテキストにして行われた1976年頃の講義をまとめた本が
「イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む」という本だ。

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明治11年頃の記録を昭和51年頃に読んだ本を平成27年に読む。
それぞれの「日本」を感じながら読むのはなかなか面白かった。

「日本奥地紀行を読む」の宮本先生は明治から戦争を経て
昭和51年までに変わってしまったことや
どうやら変わっていない日本人の美点・汚点を語り
今後の予想もところどころに書いているけれど、
今の日本でも改善されていない事や考えるべき事が多く含まれている。

「日本奥地紀行」でバードが書いている興味深い話としては
秋田県が「エデンの園」「楽園」「桃源郷」とまで絶賛されていて
当時から外国人が感嘆していた日光と同等くらいの褒められ方をしている部分がある。
「ふしぎの国のバード」というタイトルでコミックも出ているから
秋田県の方は「日本奥地紀行」か「ふしぎの国のバード」で
秋田県まで到着した話は是非とも読んで欲しいと思う。
郷土に誇りと愛着を感じられるんじゃないかと思う。

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また、バードは北海道まで渡っていて当時のアイヌについて詳しく書いている。
アジア人よりもヨーロッパ人に近いと評し、未開だけれど美しさという点では日本人に勝るとされた
アイヌの文化が細かく記録されているし
当時の日本人がどれだけアイヌを見下していたかもよくわかる。
そこに宮本先生の「日本奥地紀行を読む」の解説による
日本人独自の植民地支配法の特徴によって血統という意味での「純粋アイヌ」が激減した理由も合わせると
アイヌ文化の保存と伝承は日本人の責務かもしれないと思わせるものがある。

余談になるけれど、アイヌを例とした日本の植民地支配法から
大日本帝国の支配が中国や朝鮮半島での場合と遠くはなれたフィリピンなどの場合で違ってしまい、
片や恨みが残りもう一方では感謝されるという事態が起こった理由が解けるかもしれないと
新たな視点を与えてもくれた。

白人、中国人、日本人の関係も興味深い。
簡単に言えば、白人にとっても日本人にとっても中国人は日本人より格上だったという事だ。
白人は日本人よりも信頼の置ける中国人を重要なポストにつけ良い待遇を与える。
日本人は中国人の元に奉公に行くのが自慢になる。
これが当時の関係性だったらしい。
宮本先生は昭和51年当時のアフリカでは白人、インド人、黒人という関係に同じモノを見たらしく
日本人が日清戦争に勝利したことで中国人を見下すようになり独立意識を高めたように
黒人がやがて日本人のように力をつけるかもしれないとみていたようだ。
その予想が当たっていたかどうかはともかく、
中国人とインド人がともに現地人(日本人・黒人)支配のための緩衝材となっていたというのは面白い。

歴史の授業では学べず、時代劇などでは誤った印象を与えている
日本人生活の「現実」について本当に勉強になる本だった。

絹糸がない時代は長い糸がないから服がなかなか作れず(一枚に五ヶ月かかるらしい)
多くの人は洗濯をせずに毎日同じ服を着ていた。
それが原因で皮膚病が多く発生していた、なんて事は大学で学んでいる人でもないと知らないだろう。

GHQに日本が支配されるまではいたるところにノミやシラミがいた、なんていう事実も
当時を知る人が高齢で亡くなっている今はあまり知られていない。

「日本奥地紀行」「イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む」を読んでみると
今も昔も変わらない日本人の美点と問題点が本当によくわかる。

歴史や当時の現実を知ることは本当に大切だ。
都合の良い、聞き心地の良い、日本を誇れるような事ばかりを抽出して学ぶような
偏向した勉強ではなくて
当時の生活者の記録を読解して考えるような歴史の学び方をオススメしたいと思う。